なんの話かまったく分からないが、村主は珍しく言葉に詰まって、ぽりぽりと頭を掻いて、ため息混じりにつぶやく。
「扱いづら! このタイプの人種未知すぎて分からない」
「ええ……」
「ていうか、また髪で隠してんなよ。声も作るな」
 そう言うと、村主は桜木の髪の毛を、耳に無理やりかけた。
 桜木の丸い瞳があらわになって、俺は一瞬ドキッとした。
 雪のように真っ白な肌をしている桜木は、猫背のままおろおろと目を泳がせている。急に視界が開けると、視線の置きどころに困るのだとか。
 挙動不審な彼女を黙ってじっと見つめていると、ふいにばちっと目が合った。
 見つめていたことがバレないように、俺はとっさに目を逸らしてしまう。
 すると、そんな一連を見ていた村主がつまんなそうに舌打ちをした。
「何もう、アオハルですか? やってられない。早くくっつけばいいじゃん。あーもう、桜木、アンタ最近行ってみたいとこないの?」
「え! なんで急にそんな話題に……」
 デートを取り付けようとしているのか、村主がキレながら桜木のことを問い詰めている。
 怒ってるのか、応援しているのか、それとも無理しているのか、村主の行動は俺には理解できない。
 桜木は、意味は分からずとも、聞かれたことにちゃんと答えなければと思っているのか、うーんうーんと唸りながら行きたい場所を捻り出していた。
 数秒経ってから、「あ」と小さく声を上げて彼女はつぶやく。
「土手に、行きたい……」
「え? 何言ってんの?」
 村主と同じように、俺もまさかの回答に眉をしかめる。土手なんていつでもひとりで行けばいいだろ……。
 村主に睨まれた桜木は、怯えながら小さな声で答える。
「春になったら、勿忘草がたくさん咲くって聞いて……」
「勿忘草? なんでそんなの見たいの」
「見たいっていうか、採りたいというか……。死んだばあちゃんが好きな花だったから」
「……ふぅん」
 桜木の中で、祖母の存在はかなり大きいものなんだろう。
 彼女の口から母親の話を聞いたことはないが、祖母の話は何回か聞いている。
 村主はあきらかに反応に困っているので、俺はようやく口を開いた。
「行くか。春になったら」
「え、ひとりで行けるので大丈夫ですけど……。人様を連れ出すような場所でもないですし……」
「殺すぞ」