杏奈が眉を顰める。
「そのとおり。壊れてるのよ。そんなのわざわざ送ってくるとかさ……。嫌なら嫌って言えばいいのに――」
「嫌って、何がです?」
「これ見て」
手紙を渡され、さくりは一瞬戸惑ったが、杏奈が手をひらひらさせ「早く」と急かしてくるので便箋を広げる。ペン習字のお手本みたいな綺麗な字が用紙を埋めていた。
「『骨董市で見つけたオルゴールです。この間の話から俺が考えていた気持ちを代弁しているみたいだったから、杏奈に送ります』――代弁?」
さくりが気になった部分を読み上げると、杏奈は頭を抱えた。
「ごめんなさい先輩。全っ然、意味分からないんですが」
「このメモはオルゴールに入ってたの」
今度は水色の小さなカードが出てくる。こちらには、“曲名は『亡き王女のためのパヴァーヌ』”と書いてあった。
「えっと。ガチで意味不明です」
「先月ね、ひとつ年下の従姉妹が結婚したのよ」
「い、イトコさん? えっと……それはおめでとうございます……?」
「高卒で就職した子で、相手は上司でさ。結婚式のドレス可愛かったなぁ……私はああいうタイプの似合わないだろうから羨ましかったぁ」
「はぁ……」
さくりは黙ってカフェモカを飲む。この唐突に始まったイトコさん話、まだ続くのだろうか。杏奈は時々話が脱線していってしまう人なので不安だったが、少し様子を見ることにした。この店に来て、ようやく落ち着いて飲み物を飲めたのだ。ちょうどいいタイミング――。