「こ、これは」
「オルゴールなの!」
オルゴールと聞いて、真っ先に浮かんだのは響生の顔だった。普段は穏やかに微笑んでいる顔は、オルゴールに触れるとガラリと変わる。特に分解作業をしている時の真剣で鋭い瞳。まるで別人のようだったが、自分には決して向けられない熱い瞳を見ていると、胸がそわそわしたりドキドキしたりして――。
(あっと……違う違う。今は杏奈先輩の話でしょ)
「オルゴールに怒ってるんですか?」
「惜しい。これを送ってきた彼に怒ってます」
「遠距離恋愛中の、あの彼氏?」
「そう。画家修行でパリに行ったっきりの、あの彼氏」
「一週間前は惚気話ばっかりしてたのに」
さくりは呆れながらオルゴール箱の蓋を開けた。箱の半分が小物入れで、もう半分の部分にオルゴールが隠れている、よくあるタイプのものだ。
「すごい、蓋の裏にまで彫刻がある〜! 細かくてオシャレですねぇ。かわいい」
音が聞きたくてネジを回した。が、うんともすんとも言わない。さくりは思わず「これ壊れてるじゃん」と呟いて――そしてハッとした。
(やばい。彼氏からのおくりものにケチをつけてしまった!)