響生は、さくりが何だかんだ言いつつ美味しそうに飲んでいるのを、穏やかな笑顔で見つめていた。

 昔から響生の世話好きはさくり限定で、そして、何故か至上主義的なところがあった。たまに特別扱いされる分には優越感に浸れていいものだけれど、こうして面倒くさい時もままあり、さくりの胸中は複雑で。本当の兄妹だったら、どうなっていたのだろうと思う。絶対、今より面倒くさいに違いない。

「話を戻そうか。その先輩のオルゴールって?」
「実は、もう預かってきちゃってるんだ。――杏奈先輩の怒りが激しくてねぇ……。このまま勢いで彼氏さんと別れちゃうのも、どうなんだろって思ったから」
「さくり。もうちょっと詳しく」

 苦笑する響生に木箱を出して見せた。A4サイズを半分に折ったくらいのサイズの箱は、小物入れタイプのオルゴールだ。

 蓋を開けても音は鳴らない。ネジを回しても。

「ね? 壊れてるでしょ」
「……このオルゴールが壊れているのと、先輩が怒って彼氏と別れるかもしれない話は、どこで繋がってる?」
「それは――」

 何度も蓋を開け閉めして確認し始めた響生に、さくりは店に来る前のことを話した。