行きたい時に行くだけだから、待たない。杏奈は彼にそう言っていた。

 だけど今度は『待っているから、迎えに来て』と、それだけを伝えに彼のもとに飛んでいくなんて。

「にしてもさ、二人とも回りくど過ぎない? 二人でクリスマスを過ごすんでしょ、オルゴール持ってって婚約すればいいじゃん。そんな面倒くさいことしなくても……」

 いちご大福に手を伸ばし、さくりが呟くと、響生は苦笑する。

「大人になると、色々あるんだよ。さくりにはまだ早いかな」
「子供だって言いたいのか! それくらい私だって…………」

 文句を言ったはいいが、響生の言うとおり、さくりには“大人の色々”がよく分からなかった。同じクラスの男子に片想いしてる程度じゃ「まだまだ」なのだ。恋の駆け引きのコの字も知らない。

「私だって……って何? まさか……さくり、付き合ってる子いる……のか?」
「告白もしてないのに付き合えるわけないじゃん」
「こ、告白ッ⁉」
「あーもう何でもないー」

 これ以上はノーコメントと、大福を頬張る。いちごの甘酸っぱさに、餡子の甘さと塩加減。ああ、美味しい。

 いまのところ自分に理解できるのは、お菓子とお茶の味くらいだ。

 ――それでも、まあいいか。

 放課後デートや恋人と過ごす休日……も憧れるけれど、響生の店でのんびり過ごしている方が楽だし。