「急にどうしちゃったんだろう」
「会いに行くそうだよ」
「は?」
「例の彼氏にさ。さくりに伝言『そういう事情でしばらく留守にします。私の代わりは任せた。詳しい話は南雲店長ヘ』だって」
「えぇ……。何それ、“詳しくはWEBで”みたいな言い方。メールくらいしてくれてもよかったのに」
それにしても、色々意外だ。杏奈はしっかり者だから、自分と違い貯金もしっかりしてる人だろうなと思っていたから。資金調達のためにこの店に来ただなんて……。
(海外に行くって、そんなにお金がかかるものなの? 大変だな)
「せっかく彼氏のところに行くのに、あのオルゴールを持っていかないのが謎だよ」
「わざと僕の店に“預けて”いったんだと思う。渡航資金のためじゃないよ」
「わ、わざと? なんで」
「質料は払うから、しばらく預かっていて欲しいってね。理由を聞いて、無利息にした。ちなみに、貸した金額はそのまま質料の前払い分として受け取ってる――というカタチ」
「それもう、ただ預かってるだけじゃん……」
楽しそうに笑う響生は「うちは普通の質屋じゃないから」とご機嫌だ。
そうだった。この店はそういうところだった。
――いや。響生の人柄で経営されている店だからこそ……なのだろう。
「先輩はすぐ戻ってくるのに、しばらく預かっていてなんて、また不思議だね」
「質受けは彼にさせるそうだよ。杏奈さんを迎えに来た時にね」
「迎えに……それって!」
「なるべく早く来てくれるといいんだけど」