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 クリスマスイブまであと数日。商店街に流れる音楽は相変わらずクリスマスソングばかりだ。カップルは……もう気にするのはやめよう。

 さくりは前だけを見て、早足で『ラ・ルーナ』へ向かった。


「おかえり。さくり」
「響生さん、ただいま」

 響生はいつものようにカウンターの上にオルゴールの部品を広げていた。いそいそとチーズドームの中へ部品をしまい、カウンターへ入る。

「バイト忙しそうだね」
「うん。杏奈先輩がしばらくお休みするから人が少なくて」
「――あぁ、そうか」

 納得した表情で頷く響生を、さくりは見逃さなかった。お茶を淹れる準備をしている響生を視界の隅に入れつつ、「それがさぁ」とわざと素知らぬ振りで続ける。

「年末年始はフルで入るから、数日まとめて休みが欲しいって店長にお願いしたらしくてね。杏奈先輩ってあまり無茶言わない人だし、これは何か事情があるんだろうって、みんなも快諾したわけよ」
「なるほど」
「……響生さん、理由知ってるでしょ」

 響生は微笑んだ。

「あれから杏奈さん、この店にまた来たんだ。オルゴールを持って」
「また壊れちゃったの⁉」
「修理の相談じゃなくて、質入れの相談。うちは質屋だよ?」
「オルゴールを……え、まさか売り――」
「違うよ。売りに来たんじゃなくて借りに。だから、うちは質屋だって言ってるだろ」

 苦笑の響生が、コーヒーといちご大福を並べた。日本茶じゃないんだ……と内心思ったが、杏奈があのオルゴールでお金を借りに来たという方が衝撃的で、突っ込んでいる場合じゃなかった。