「私は、将来安泰の旦那が欲しいとか、苦労のない結婚生活を送りたいとか、そんなこと、これっぽっちも思ってないっ!」
「うんうん! そうだそうだ! 言ってやりましょうっ」
「さくり、煽らないで。杏奈さんも落ち着いて。コーヒー淹れますから」

 響生になだめられ、杏奈は不満顔でコーヒーと一緒に出されたチョコレートを頬張っていたが、二つ食べ終わる頃には気持ちも整理出来たのだろう、スッキリとした表情になっていた。

 彼は、パリ行きが決まった時も杏奈に「待ってなくていい」と言ったそうだ。それを「待たないよ。行きたい時に行くだけだから」と返した杏奈。

 さくりはそれを聞き、杏奈はやっぱりクールビューティーでかっこいい、と思った。けれど、

「こんなに綺麗なオルゴール見つけたのに、自分は聞けなくてもいいなんて……もったいないよ」

 と、涙目で呟いた彼女の横顔は、恋する可愛い女の子で――。

「オルゴール、直って良かったですね。杏奈先輩」
「うん。ありがとう、さくり。南雲さんも、本当にありがとうございました」
「ネジは巻き過ぎないようにしてくださいね。また折れてしまっては困るから」

 ニッコリと微笑む響生に、杏奈もフフッと笑う。

「はい。何事も八割……ですね」
「八割って? そんなことさっき言ってたっけ?」

 ひとりだけキョトンと首を傾げたさくりに、響生と杏奈はまた笑った。