「さて。ここで問題のオルゴールに話を戻して」

 響生はネジを回し、オルゴールを鳴らす。

 普通のオルゴールの倍の音楽性――。

 さっきの話を聞いたから「なるほど」で終わるものではなく、奏でられる音楽に、さくりも杏奈もハッと顔を上げた。

「すごい! きれい」
「こんなに違うの?」

柔らかい音色が店に響く。古い箱からキラキラと音の粒子が舞うように。少し切なく、美しいメロディー。

「この『亡き王女のためのパヴァーヌ』が彼の心にピッタリあった理由。それはパヴァーヌに使われたステップが、“ためらいの足取り”として結婚式で見れるからじゃないかな」
「ためらいの足取り?」
「うん。杏奈さんは従姉妹さんの挙式で見たでしょう? バージンロードを歩く時のステップ――」
「あっ。あの、右足を出して左足をそれに揃える。次は左足を出して右足を揃え……って、少しづつ進む……?」

 響生は微笑み、頷いた。

「やっぱり彼は、杏奈さんのことが愛おしくて諦めたくない気持ちもあるのでは。この曲だけでバージンロードのステップまで想像出来る人、そういないと思うけれど……。
 僕には、彼の伝えきれない想い――戸惑いや切なさが、この手紙とオルゴールに詰まっている気がするんだ」
「画家が描いた王女様の絵からイメージされた曲っていうのもあるのかなぁ」
「そうだね、さくり」
「でもさぁ。そんなに杏奈先輩が大好きなのに、ちょっと自信がないからって、ここまでして振られようとするとか……彼氏さん頑張る方向を間違ってるんじゃない?」
「さくり……。いや、確かにそうなんだけど。きっと彼は、とても繊細な心の持ち主で――」
「そうよね! さくり! あいつは間違ってるわよ!」

 バン! とカウンターを叩き杏奈が立ち上がる。

 さくりと響生は突然スイッチの入った杏奈に驚き、オルゴールは振動で蓋が閉まり音を止めた。