「従姉妹の話を杏奈さんが嬉しそうに話すのを聞いて、彼も結婚について少し考えたんでしょうね。そして思った。僕は彼女にふさわしい相手ではないのだろう、と」
「え?」
「従姉妹さんのお相手は会社の上司。きっと出世コースに乗っている前途洋々な方なのでしょう。それに比べて自分は、画家で食べていけるかも分からない身。結婚相手に負担をかけるのは間違いない、不幸にしてしまうと思ったのでは? だから身を引こうと」
「そんな勝手に……!」
「ですが、そう簡単に杏奈さんを愛する想いは消せない。遠距離恋愛なのは彼にとって救いだったのかも。彼女が自分を嫌いになって喧嘩別れ、の方が諦めることも出来るだろう……会ってしまえば気持ちが揺らいでしまうから――なんてね。改めて言うと、ネガティブというか……女々しいというか」
苦笑する響生と、ため息をつく杏奈。さくりは、(面倒くさい男がもう一人いた……)と思いながら梅昆布茶をすする。
また昨日の勢いで怒りだすかもとヒヤヒヤだが、今のところ杏奈にその素振りはない。怒りを通り越して呆れているのか、項垂れていた。