クリスマス前の商店街は、緑と赤、金とクリスマスカラーで溢れ返る。流れるジングルベルや足取り軽い通行人。心なしか、最近カップルが増えた気がする。
彼氏いない歴十七年の東雲さくりは、商店街のド真ん中でじゃれ合う高校生カップルを横目に、脇道へ入った。
シャンシャン響いていた鈴の音はすぐに消え、代わりに植木の中から猫の鳴き声が聞こえる。昨日もいたよな……と思いながら、さくりは『ラ・ルーナ』のドアを開けた。ドアベルがちりんと鳴ると、カウンター席に座っていた青年が顔を上げた。
「おかえり。さくり」
「響生さん、またオルゴール分解してたの?」
「これは仕事」
響生と呼ばれた青年は、カウンターに並べてあった金属片やネジを集め、それらをガラスの蓋付きチーズドームの中へ片付けた。
チーズドーム――本来はチーズやパンの乾燥や埃を防ぐために使われるもの。
何故オルゴールなのだろうと、いつも思う。そのガラスドームの中に本来入れられるものを、さくりは一度も見たことがない。前からずっと、無機質な部品ばかりだった。