「さ、さくりに聞いたんですけど。彼の気持ちが分かったって本当ですか?」

 杏奈の中にあった響生のイメージが、怪しい質屋のオタク店長から、怪しい質屋の信用できるイケメン店長へ昇格されたらしい。

 それを察したのか、響生は微苦笑を浮かべ、オルゴールの蓋を開けた。

 内蓋も開け、中に収まっているオルゴールを杏奈に見せる。

「回しすぎたせいだと思いますが、ネジが折れていました。そこを修復して、あとは汚れも多くついていたので洗浄を。曲名は仰っていたとおり《亡き王女のためのパヴァーヌ》です。三十弁のものとは、また素晴らしい」
「三十弁って凄いの?」

 さくりの質問に、響生は頷く。

「一般的に雑貨屋などで売っているタイプは十八弁。弁というのは振動板の歯の数で、単純に言えば“音の数”だよ。
 ほら見て、この櫛みたいなやつが弁。多くなればなるほど音楽が豊かになる。三十弁は十八の約倍だから、音だけじゃなく演奏時間も倍だ」
「へぇ。そうなのか」
「当然、値段も高価になる。オークションに出品したら、マニアからきっといい値がつくよ」
「えっ、見つけた先輩の彼氏すごいじゃないですか!」
「う、うん……」

 杏奈は戸惑っていたが、どこか嬉しそうで。さくりもホッとする。でも、そうなってくると、いよいよ気になるのは彼氏の心。

 骨董品だから壊れていた可能性はある。しかし、壊れた品をわざわざ買うか? その場で音を確かめるとかしなかったのか?