「それにしてもさ、杏奈先輩の彼は、どうしてこんなことしてきたんだろ。壊れたオルゴールが自分の気持ちの代弁とか……。先輩を怒らせたかったのかな?」
「従姉妹の結婚話がきっかけだったんだよね?」
「うん。先輩、めちゃくちゃ怒ってたけど、最後は『調子に乗ってあんな話しなきゃ良かった』って悲しそうで。
もう何年も遠距離なのに、すごくラブラブだったんだよ? こんなことがきっかけで終わっちゃうのは切ないよ」
「さくりは、二人に幸せになってもらいたいんだ」
「そりゃあもちろん!」
「じゃあ、さらに気合い入れて直さなきゃだな。僕も二人を応援したい。
それに……こんな回りくどい気持ちの伝え方は、ある意味とてもロマンティックだと思うけど、きちんと伝わらないんじゃ切ないだけだよね。まぁ、これが彼氏さんの精一杯だったのかもだけど……」
うんうん、とクッキーを咀嚼しながら話を聞いていたさくりは、「ん?」と口を止めた。口に残るクッキーを紅茶で流し込み、カウンターにかぶりつく。
「響生さん!」
響生もコーヒーを飲みながら「ん?」とさくりを見つめた。
「彼氏さんが言いたいこと、分かったの⁉」
「ああ、まあね。明日、杏奈先輩と一緒に店においで」
それまでに直しておくよ、と微笑む響生に戸惑いつつ、さくりはその場で杏奈へメールを打った。
『画家とオタクのコラボレーション、成功です!』