「ところで、響生さん。オルゴール直りそう?」
「ああ。ネジが空回りしてるから折れてるかもしれない。古いものだし、分解して洗浄も必要かな」
「杏奈先輩、喜んでくれるといいけど。聞いたら怒りも収まるかもだし。オルゴールの音って不思議と落ち着くよね」
「さくりにとってオルゴールは子守唄と同じだから」
「それ、明らかに響生さんのせいだよね」

 響生はクスッと笑い、「思い出すな」と店内を見渡した。

「今よりもっとこの店に入り浸ってた時のこと。可愛かったなぁ」
「なんかすごい昔話みたいに言ってる……。おじいちゃんか」
「さくりが成長してるってことだけどさ。――高校に入ってから、急に帰ってくる時間が遅くなったのは寂しいかな……お兄さんとしては」

 サイフォンでコーヒーを淹れる響生を眺めながら、さくりは(やっぱりお兄ちゃん感覚なんだ)とため息をつく。

 帰ってくる時間まで指摘され始めると、いよいよ疑似シスコンが激しくなってきたような気分で、少し複雑だった。その内、彼氏を連れて来いだの、あの男は認めんとか言い始めかねない。なんて面倒くさいんだ。自分の父親よりうるさくなりそう――。