静かでノスタルジックな感じがする調べは、亡き王女のためと言われたら「なるほどな。悲しそうだし」と思う曲だった。

 しかし、さくりがその感想を口にすると、響生はゆっくりと首を振る。

「亡き、と書かれるから勘違いされることが多いけれど、死んだ王女へ捧ぐ追悼曲じゃないんだ」
「ち、違うの?」
「パヴァーヌはゆっくりした二拍子の舞踏曲でね。ラヴェルは、この曲は追悼歌ではなく、かつての王女が踊ったかもしれない宮廷舞踏曲――そんな風に語っていたそうだ。スペインの宮廷画家が描いた、十七世紀のスペイン王女マルガリータの絵をモデルとしたという説もあるんだよ」
「へぇ〜……じゃあ、杏奈先輩が『過去の女って言いたい訳⁉』と怒ってたのも、あながち間違ってないのか」
「さすがにそう考えてしまうのは、贈った方も贈られた側も、切なすぎるんじゃないか? 骨董市でわざわざ買って伝えることでもないし――」
「先輩は、これだから芸術家は回りくどくて面倒くさい! とお怒りでした」
「うーん。面倒くさい……かぁ。まぁ確かにそうなんだけどね」

 困った顔をする響生を見て、さくりは心の中で「いや、面倒くさいとは言ってなかったな」と思う。響生の顔を前にしたら、ついポロッと。少しだけ罪悪感――。