まるで早口言葉だ。滑舌がいいだけにアナウンサーが喋っているみたい。さくりは圧倒されつつ、それでも、気になるワードはしっかり拾った。

「オルゴールに詳しくて直せそうな人、わたし知ってますよ。常日頃から分解して遊んでて、部品をチーズドームに大事にしまっちゃうくらいのオタク」
「チーズ? なにその人……大丈夫なの」
「変わってるけど、多分大丈夫です。私、頼んでみますから。彼氏さんに文句言うのは、音色を聞いてからにしません?
 代弁って言って送ってくるくらいだもん、もしかしたら深ーい意味があるかもって、私なら思っちゃうなぁ。だって回りくどい人なんでしょ?」
「音色……意味……」
「ですです! 画家とオタクの共演!」

 さくりは努めて軽いノリで提案する。深刻にならないように。あまり刺激しないように。

 激しく怒っていたのに、今は泣きそうな顔をしている杏奈を、さくりは放っておけなかった。

「あとその《亡き王女のためのパヴァーヌ》って曲、知らないから聞いてみたいんですよね」
「えっ。さくり知らないの?」

 ――笑って誤魔化す。

 洋楽ですよね、と言ったら、「惜しいような惜しくないような……」杏奈は頬を引きつらせていた。