「長く付き合ってる彼氏によ? 『杏奈は結婚願望強いの?』って聞かれたら、そりゃあ『あるよ』って答えるでしょ。私だって結婚に対して期待とか夢とか持ってるもん。学生だからまだ先の話だろうけどさぁ……」
杏奈は同じ言葉を繰り返した。
「願望強いアピールしないで、“ある”にとどめたのは我ながら頑張ったと思う」
「先輩、彼氏さんと結婚したいんですね!」
「いや……それは……」
ストローを噛む杏奈の頬が一瞬で赤くなる。クールビューティーの珍しい反応に、さくりの頬もつられて熱くなった。
(結婚かぁ)
幼稚園の時の将来の夢は、“お父さんのお嫁さん”だったっけ――。
「だからね! 俺の気持ちだってコレが送られてきたら、はぁ⁉ と思うでしょ?」
杏奈の怒りが復活し、さくりと隣のサラリーマンは同時に飛び上がる。メモをバシバシ叩く杏奈の口調は、徐々にスピードを上げて。
「考えてないなら、考えてないでいいじゃん! それを意味深な手紙寄越して……。骨董市で売られてた壊れたオルゴールに、《亡き王女のためのパヴァーヌ》?
壊れてるならせめて直しなさいよ! 亡きって何! 私はもう過去の女って言いたい訳⁉ 回りくどいのよ、これだから芸術家って!」
「あ、杏奈先輩、落ち着いて。はじめから壊れてたとは限らないんじゃ……輸送中に……とか」