これがなきゃ眠れないんだと
ポケットから取り出す鎮痛剤
ラムネみたいに噛み砕いてみせるアンタが嫌いだよ

まるで鏡の中の自分みたいで
ポケットに隠したジャックナイフを
アンタの前では見せびらかさない俺のちっぽけな見栄

眠れやしない夜更けに
街灯の下に集まる
蛾の群れよりも不自由な
翅《はね》すら持たない惨《みじ》めな生き物

いつか聴いた唄みたいに
バイク奪って走って
ガラス割って殴り合ったら
くたびれて眠ってしまえるかな


 詞を書くのは煥だって、文徳に聞いた。いつも心を堅く閉ざしてるみたいな、あんなやつが、なんて無防備な言葉を編むんだ。
 しなやかで澄んだ声が歌い上げる言葉が、一つひとつハッキリ刺さってくる。
 煥の喉が操るのは、耳で聞き取る声だけじゃなくて、桁違いの立体感と力感と情感を載せた思念そのものだ。手で触れることができそうなくらい、煥の歌声は、目に見えない形をしっかりと持っている。
 嫉妬するよ、ほんと。もしも煥がおれのチカラを使えるんなら、世界の一つや二つ、簡単に征服できるんだろうな。
 間奏で顔を上げた煥は、マイクのそばを離れて、文徳や亜美や牛富や雄を振り返る。うなずき合うメンバーの顔に笑みが浮かんだ。オーディエンスに背中を向けた煥も、きっと笑ったんだろう。
 こっちに向き直ったときにはもう、煥は詞の世界に戻っていた。空っぽな表情を装って胸の痛みを隠すような、切なそうな顔だ。


お気に入りだったスニーカー
つま先が痛くても履いてた
いろんな大事なモノを一つ一つ覚えてられたあの頃

ウサギのぬいぐるみを咥《くわ》えてた
みすぼらしく汚れてても大事だった
ある日消えたウサギを探したら 再会できたゴミ捨て場

こんな風にちょっとずつ
壊して捨てて忘れて
大人になっていくのなら
子供の死体が大人なのかよ

ゴミ捨て場からの帰り道
泣きながら生きてたのに
ゴミ捨て場に棲み付いた今の
俺は 大人でもないタダノシカバネ


 痛いなあ。すっげー痛いとこ突いてくるもんだ。
 昔っから大事だったはずのモノが、怖くなったり鬱陶しくなったりしてさ。知恵がついてくると、気付いちゃうんだよね。
 あっ、逃げたほうがラクじゃん、って。
 それで、投げ出して逃げ出してさ。だいぶ時間が経ってから、もっかい気付くの。大事なモノがいつの間にか、ボロボロにぶっ壊れて修復できなくなってることに。
 逃げるしかないって思ったんだよ。でも、ほんとにそうだったかなって、昨日、めっちゃ後悔した。一年ぶりに病院にお見舞いに行ったら、想像してた以上に胸が痛くて、苦しくなって。
 いっそのこと何も感じないくらいまで、この心が死んで腐ってりゃよかったのに。おれって、かなり醒めてるとこある割に、肝心のとこは中途半端なんだよな。
 強くもなければ弱くもなくて、正直になる方法だけはまったくもってわからない。


努力しろよ頑張れよって
ありがたく頂戴した言葉は
未開封のまま賞味期限
たぶんとっくに腐っちゃってる

こんな俺にしたのは誰だ?
犯人捜しに意味があるかい?
時間の無駄だろ 気付いてんだろ
ゴミ捨て場から出歩いてみようか

生き返る魔法を探しに行こうか
くたびれて倒れるまで足掻いてみようか