その一言は、おれのなけなしの理性と情けを吹っ飛ばした。
【今さら何を抜かしてんだよ、テメーは!】
 チカラの制御も吹っ飛んでいた。思念による怒号。おれ自身の脳ミソまでぶっ壊れそうなほどの大音量。
 痛い。熱い。血管が破裂しそうだ。
 だからどうした? やめるもんかよ。死んだってかまわねえ。
 わからせてやる。おれがどんだけテメーを憎んでんのか、その身を以て思い知らせてやる。
【そのナイフ、拾え。できんだろ? 拾えよ。さあ!】
 チカラある血の者を従わせることは、限界の突破を意味する。もしかしたら禁忌の違犯かもしれない。
 だけど、生涯に一度きり。今だけでいい。
 超えたい。
 チカラがほしい。何もかも屈服させられるだけの膨大なチカラが。
 雄叫びが聞こえる。おれの喉が吠えている。腹の底から噴き上がってくる気迫のすべてを、音ではない声に込めるために。
 声よ、飛べ。
 熱く尖った槍になって突き刺され。あいつの心臓をぶち抜いてやれ。
【ナイフを拾えッ!】
 ぎしぎしと神経に障る音を立てて、ついに号令《コマンド》が意味を成す。地面に放り出されたナイフが、わなわな震える手によって拾われた。
 抵抗すんじゃねぇよ。さっさとあきらめろ、クズ。
 震える刃がライトを浴びてチラチラと光る。殺傷能力は十分なはずだ。人間の肉体なんて脆い。ただ一撃、ほんの一瞬で、全部を終わらせることができる。
 ほどくことのできない拳の内側で、爪の刺さった手のひらが痛い。吠え続ける喉が痛い。頭がはち切れそうに痛い。胸が、いろんな感情と記憶がごちゃ混ぜになって沸騰している胸が、痛くて痛くてたまらない。
 おれは命じた。
【喉を突け。そのナイフで自分の喉を突いて、死ね】
 ナイフはわなわな震え続ける。
 足りない。あと少し、チカラが足りない。
 おれはまたチカラを振り絞る。研ぎ澄ませた思念を、おれだけの特別な声に吹き込む。渾身の号令《コマンド》を発する。
【突け! そして……】
 そして、何もかもが終わることを願った。呪いも憎しみも怒りも、すべてを懸けて、願った。