絶望、に撃ち抜かれた。
 比喩なんかじゃなくて、ほんとに。
 絶望。
 凄まじいエネルギー量の思念が衝撃波になって、おれの体だろうが地面だろうが車だろうがビルだろうが、全部をぶち壊しながら突き抜けていった。痛いなんて感じたのは一瞬だけで、あとはただ真っ暗になった。
 で、おれも絶望した。一応、生きてここから出ようと足掻いてたんだけど、思い直したんだ。
 もうどーでもいいよね~、って。
 このままグダグダ生きるより、さっさと終わっちまうほうが面倒くさくなくていいんじゃないの、って。
「姉貴も、いねーんだし」
 おれはつぶやいた。つぶやくことができた。まだ体がここにあるんだなって気付いた。
 死にかけてんだけど、痛くはない。重くて、息ができなくて、ずぶずぶ沈んでいくみたいで。自分の中身がすっげー濁っていくのがわかる。ざらざら。どろどろ。
 この混濁に全部を呑み込まれたら、おれ、きっと、終わっちゃうんだな。
 崩れたコンクリートと傾いたアスファルトに挟まれて、半分以上ぶっつぶれた体を首から下にくっつけたおれは、どうにか動く眼球だけ上を向けて空を見た。赤いような黒いような、ひび割れた空だ。
 何でまだ続いてんだろうなって思った。
【終わっちまえよ】
 こんなしょうもない世界なんか。
【滅んじまえよ】
 遅かれ早かれ、長持ちしやしねぇんだ。
【今すぐ消えてなくなれ】
 もうさ、みんな死んじゃったし。
【バイバイ】
 おれもさっさと消えてなくなりたいんだよね。
 短くて、くだらなくて、振り回されてばっかで、どーしようもない人生だった。
 ほら、本で読んだとおりにさ、運命がデカい樹みたいなもんで枝分かれしてるってんなら、この一枝、枯らしてやるよ。もっとマシな枝、あるんだろ? そっちに栄養回してやるから。
 いるのかどうだかわかんない、どっか別の一枝に生きてるおれがさ、姉貴と一緒に幸せに生きてりゃいいね。あり得ねぇのかな。ま、どっちでもいっか。
 どうせ、今ここにいるおれ、もう死ぬからさ。
【何もかも道連れにしてやる。来いよ、全部】
 おれは命じる。
 ざらざらでどろどろの思念が、滝が落ちるような猛烈な音を立てて額に集まる。
 おれは目を閉じた。ひび割れた空が見えなくなった。自分の中で渦巻く真っ赤な熱だけが見えた。心臓の音がほんの少し聞こえた。
 額が熱い。おれは最期の呼吸をする。
【終われ】
 真っ赤なチカラが砕け散って、何もかもが消えた。