黄金色の光が指向的に伸びる。避ける暇なんかない。白い光の障壁がパキンと割れる。
射抜かれた。衝撃が体を突き抜けた。
冷たい。ひどく冷たい何かによって体が侵蝕される。肌の下を、血管の中を、無数の冷たい虫が這い回るかのよう。
「ああぁぁぁああっ!」
おぞましさに、叫ぶ。
理仁くんが、震える全身を抱えて床に膝を突いた。号令《コマンド》の力場が消失する。
冷たい虫の大群に神経を冒されていく。脳に入り込まれる。猛烈な不快感。吐き気がする。ぼくは頭を押さえて目を閉じる。
やめろ。来るな。出て行け。
平衡感覚が消える。床に倒れ込んだのがわかる。痛みが遠い。
ぼくのチカラを、侵入したチカラが、剥がして奪い去ろうとしている。ぶちぶちと神経細胞が引き千切られるような感触。意識が飛びそうになる。必死でしがみ付いている。
怖い。
これこそが自分だと信じてきたものがすべて犯されて壊される。
ただただ怖い、怖い、怖い。
【……ああ、この程度が限界か。仕方あるまい】
ざらざらした声が脳内に響いた。
ばちん!
衝撃とともに、引き剥がされたモノがある。飛び込んできたモノがある。それきり、しんとする。全身の内側にうごめいていた冷たい虫の大群も消えた。遠ざかっていた意識が次第にハッキリしてくる。
ぼくは目を開けた。
「何だ、これ……」
視界に情報が足りない。圧倒的に足りない。
怖い、と思った。
その瞬間。
【見えない怖い足りない数値が消えた怖い消失した数字がない欠落したチカラがない距離が取れない立てない痛い痛い体を打った見えない見えない見えない計算したい数字がほしい何もない玄獣珠が騒ぐぼくのチカラが消えたこれじゃ動けない見えない見えない見えない見えない見えないどうしてこんなことになったイヤだイヤだ観測できないイヤだ情報が足りない怖い怖い怖い怖い見えない助けて立てない式を立てないといけない助けて助けて安定しない怖いチカラがない!!!!!】
思念が奔流する。止められない。
ぼくの思念の声が膨大なエネルギーを伴って、ぼくは口を開いても喉を震わせてもいないのに、勝手に流れ出ていく。凄まじい大音量で響き渡る。
【どうしてなぜ何が起こったぼくの声が勝手に勝手に勝手にイヤだやめてくれ流れ出てしまう声が聞かれる違う響かせたいんじゃない聞かれたくないどうして勝手に声が聞かれてしまうどうしてどうしてどうしてどうして違うぼくはただ考えてしまうだけ誰か助けてテレパシーじゃないんだこれは号令じゃないんだ何が起こったイヤだ聞くな聞くな聞くななぜどうして何があった聞かないでぼくのチカラはどこに行った情報が足りない怖い怖い見えないこのチカラは何だ何だ何だ?????】
大音量の思念の声は、意識を直に殴り付ける衝撃波だ。
耳や頭を押さえて、この場の皆が倒れ伏す。
皆の苦痛の表情。でも、ぼくには為す術がない。止め方がわからない。
【何が起こってこうなったなぜぼくの声がこうなったぼくの視界はどこに行った怖い見えない聞かないでくれ黄帝珠のチカラが発動したのか祥之助の願いが叶ったのかでも違うチカラはあるぼくのではないチカラがここにある怖い怖い怖い見えない見えない見えない願いで消されたはずの理仁くんの声がぼくにあるチカラは消されなかった黄帝珠は不完全だチカラは保存された理仁くんのチカラがここにあるここにあるこれが理仁くんのチカラだそれならまさかぼくのチカラが彼に?????】
床に膝を突いた理仁くんが、愕然と目を見開いている。
自分の手のひらを注視しながら、まるでぼくの声すら聞こえないような様子で。
「何なんだよ、この、うじゃうじゃした数字……」
チカラが入れ替わった?
【不完全だ不十分だでも条件は満たしている理仁くんはチカラを失ったぼくのチカラと相互作用した怖い怖い怖いぼくの視界を返してこんなんじゃ立てない見えない見えない計算できない動けない情報が足りないああ声が聞かれるこの声をどうしたらいいどうしたらいいどうしたらいい止められない止めたい声が抑え切れない声が声が声が勝手に思いが洩れてしまう考えると全部声になる考えるだけで全部聞かれてしまうどうすればいい怖いやめて聞くなイヤだ怖い怖い怖い!!!!!】
思うだけ、考えるだけで、声になってしまう。すべてを聞かれてしまう。
テレパシーの指向性の制御ができない。衝撃波めいた大音量も、まったく調整が利かない。
混乱が加速する。指先が冷えて脚が震えている。体力がすべて声に奪われて、吸い尽くされそうな勢いで発散されていく。
【ダメだ止めなきゃこのままじゃまずいできないできないできないぼくのチカラを返せ見えない怖い誰か助けて止めて声が止まらない誰か止めて声を聞かれたくない聞くな聞くな聞くな体力が奪われるめまいがする止めないといけない声が止まらないイヤだ聞くなのぞくなぼくの思考に介入するな聞くなやめろ声を止めたい止まらない止まらない助けて情報が足りないぼくの声を聞くな聞くな聞くな命じ方もわからない声だけが流れ出る誰か止めて助けて怖い怖い怖い助けて!!!!!】
怖い。
未知のモノが体の中にある。ぼくはそれを制御できない。追い出すこともできない。
ぼくはただ怯《おび》えることしかできない。
射抜かれた。衝撃が体を突き抜けた。
冷たい。ひどく冷たい何かによって体が侵蝕される。肌の下を、血管の中を、無数の冷たい虫が這い回るかのよう。
「ああぁぁぁああっ!」
おぞましさに、叫ぶ。
理仁くんが、震える全身を抱えて床に膝を突いた。号令《コマンド》の力場が消失する。
冷たい虫の大群に神経を冒されていく。脳に入り込まれる。猛烈な不快感。吐き気がする。ぼくは頭を押さえて目を閉じる。
やめろ。来るな。出て行け。
平衡感覚が消える。床に倒れ込んだのがわかる。痛みが遠い。
ぼくのチカラを、侵入したチカラが、剥がして奪い去ろうとしている。ぶちぶちと神経細胞が引き千切られるような感触。意識が飛びそうになる。必死でしがみ付いている。
怖い。
これこそが自分だと信じてきたものがすべて犯されて壊される。
ただただ怖い、怖い、怖い。
【……ああ、この程度が限界か。仕方あるまい】
ざらざらした声が脳内に響いた。
ばちん!
衝撃とともに、引き剥がされたモノがある。飛び込んできたモノがある。それきり、しんとする。全身の内側にうごめいていた冷たい虫の大群も消えた。遠ざかっていた意識が次第にハッキリしてくる。
ぼくは目を開けた。
「何だ、これ……」
視界に情報が足りない。圧倒的に足りない。
怖い、と思った。
その瞬間。
【見えない怖い足りない数値が消えた怖い消失した数字がない欠落したチカラがない距離が取れない立てない痛い痛い体を打った見えない見えない見えない計算したい数字がほしい何もない玄獣珠が騒ぐぼくのチカラが消えたこれじゃ動けない見えない見えない見えない見えない見えないどうしてこんなことになったイヤだイヤだ観測できないイヤだ情報が足りない怖い怖い怖い怖い見えない助けて立てない式を立てないといけない助けて助けて安定しない怖いチカラがない!!!!!】
思念が奔流する。止められない。
ぼくの思念の声が膨大なエネルギーを伴って、ぼくは口を開いても喉を震わせてもいないのに、勝手に流れ出ていく。凄まじい大音量で響き渡る。
【どうしてなぜ何が起こったぼくの声が勝手に勝手に勝手にイヤだやめてくれ流れ出てしまう声が聞かれる違う響かせたいんじゃない聞かれたくないどうして勝手に声が聞かれてしまうどうしてどうしてどうしてどうして違うぼくはただ考えてしまうだけ誰か助けてテレパシーじゃないんだこれは号令じゃないんだ何が起こったイヤだ聞くな聞くな聞くななぜどうして何があった聞かないでぼくのチカラはどこに行った情報が足りない怖い怖い見えないこのチカラは何だ何だ何だ?????】
大音量の思念の声は、意識を直に殴り付ける衝撃波だ。
耳や頭を押さえて、この場の皆が倒れ伏す。
皆の苦痛の表情。でも、ぼくには為す術がない。止め方がわからない。
【何が起こってこうなったなぜぼくの声がこうなったぼくの視界はどこに行った怖い見えない聞かないでくれ黄帝珠のチカラが発動したのか祥之助の願いが叶ったのかでも違うチカラはあるぼくのではないチカラがここにある怖い怖い怖い見えない見えない見えない願いで消されたはずの理仁くんの声がぼくにあるチカラは消されなかった黄帝珠は不完全だチカラは保存された理仁くんのチカラがここにあるここにあるこれが理仁くんのチカラだそれならまさかぼくのチカラが彼に?????】
床に膝を突いた理仁くんが、愕然と目を見開いている。
自分の手のひらを注視しながら、まるでぼくの声すら聞こえないような様子で。
「何なんだよ、この、うじゃうじゃした数字……」
チカラが入れ替わった?
【不完全だ不十分だでも条件は満たしている理仁くんはチカラを失ったぼくのチカラと相互作用した怖い怖い怖いぼくの視界を返してこんなんじゃ立てない見えない見えない計算できない動けない情報が足りないああ声が聞かれるこの声をどうしたらいいどうしたらいいどうしたらいい止められない止めたい声が抑え切れない声が声が声が勝手に思いが洩れてしまう考えると全部声になる考えるだけで全部聞かれてしまうどうすればいい怖いやめて聞くなイヤだ怖い怖い怖い!!!!!】
思うだけ、考えるだけで、声になってしまう。すべてを聞かれてしまう。
テレパシーの指向性の制御ができない。衝撃波めいた大音量も、まったく調整が利かない。
混乱が加速する。指先が冷えて脚が震えている。体力がすべて声に奪われて、吸い尽くされそうな勢いで発散されていく。
【ダメだ止めなきゃこのままじゃまずいできないできないできないぼくのチカラを返せ見えない怖い誰か助けて止めて声が止まらない誰か止めて声を聞かれたくない聞くな聞くな聞くな体力が奪われるめまいがする止めないといけない声が止まらないイヤだ聞くなのぞくなぼくの思考に介入するな聞くなやめろ声を止めたい止まらない止まらない助けて情報が足りないぼくの声を聞くな聞くな聞くな命じ方もわからない声だけが流れ出る誰か止めて助けて怖い怖い怖い助けて!!!!!】
怖い。
未知のモノが体の中にある。ぼくはそれを制御できない。追い出すこともできない。
ぼくはただ怯《おび》えることしかできない。