瑠偉が吐き捨てた。
「何ていうか、胸クソ悪いんだよな。今回の件」
「ずいぶん熱くなってませんか?」
「勘が騒ぐんだよ。宝珠絡みのチカラが働いてんじゃないかって。海牙の玄獣珠がやたらと活性化してるし」
「玄獣珠の状態、瑠偉にもわかりますか」
「わかるさ。おれだって預かり手の端くれなんだ。辰珠《しんしゅ》は総統に差し上げちゃって、もう預かり手の責務を放棄したけどさ、その代わりに高校入学以来、ずっと玄獣珠と海牙のお守りをしてんだ。変なことがありゃ、すぐ気付くよ」
「お守りって言い方はないでしょう。でも、瑠偉にも玄獣珠の様子がわかっているなら話が早い」
 玄獣珠から伝わってくる鼓動のようなリズムは今、高鳴っていて速い。以前、放心状態の動物を見たときもそうだった。脚を投げ出して座り込んだ女の子たちに、玄獣珠が不快感を示している。逃げ出したがっている。
「なあ、海牙、確かめたいことがあるんだ。玄獣珠が反応するかどうかを見たい。気になる人物がいてさ」
「その人物に会いに行って反応を見るってことですか? 誰なんです、それ?」
「二年の文天堂祥之助《ぶんてんどう・しょうのすけ》。大富豪の御曹司で天才児って、校内でも有名人だ。知ってるか?」
「知りません」
「クラスメイトの顔も名前も覚えない男だったな、おまえ」
「興味のない男の顔と名前なんて、覚えるだけ無駄でしょう?」
「女なら全員覚えるのか?」
「興味のない女、以下略」
 瑠偉の話によると、文天堂祥之助は、文系では全国トップレベルの成績らしい。学年が違う上に文理が違うから、まったく知らなかった。
 さらに、文天堂家は県内でも有数の資産家だという。市内には文天堂グループ傘下のファッションビルがある。本屋が入っていない複合ビルなんて、ぼくは行く機会もないけれど、デートスポットとしてその名前を見聞きしたことくらいはある。
「その文天堂祥之助が、あの動物たちと関連しているんですか?」
「野良を、あいつが大量に買ったらしい」
「あの女の子たちは?」
「文天堂って、モテるらしいぞ。人脈がとにかく広いって話だ」
「瑠偉、その疑惑はどのくらいの確度があると考えてます?」
「胸クソ悪いこと言ってるって、自分でもわかってるよ。でも、おれはさ、辰珠くらいのちゃっちい宝珠のチカラでさえ、人間ひとりの人生を狂わせるのには十分だって、子どものころに目撃したんだ。超常的なチカラの前では、誰が何をしたっておかしくないと思う」
 瑠偉の口調は確信的だ。でたらめを口にする男じゃない。それなりに調べて証拠をつかんだ上で、物を言っている。
「どこからそんな情報を?」
「最初は勘だよ。でも、文天堂を尾行して、実際に見た。あいつが、あの異様な放心状態の不良少年少女をはべらせてる現場。それと、黄色っぽい光、みたいなもの」
「黄色っぽい光?」
「みたいなもの、だよ。マクスウェルが電磁波の一種であると唱えた光、それ自体じゃなくてさ」
「アインシュタインが粒子と唱える光、それ自体でもない?」
「おまえが持ってる玄獣珠がボワッと光って見えるほうの、光。光みたいな何かだけど、三次元的に科学できないアレ」
 ぼくは軽い頭痛を覚えた。
「昨日の今日で、この展開ですか」
「どした?」
「昨日、能力者に出会ったんですよ」
「マジ?」
「しかも、四獣珠の預かり手のうちの一人でした」
「宝珠って、集まりたがらない性質を持ってるだろ?」
「用事があるときは集まるようですよ」
「つまり、その用事があれか?」
 瑠偉は、放心状態の女の子たちへと、あごをしゃくった。
「もしそうだとしたら、ぼくは何をすればいいんでしょうか。厄介だな」
「情報と仲間を集めるのがセオリーじゃねぇの? ひとまず、玄獣珠を文天堂祥之助に引き会わせてみよう」