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眠れないまま明けた朝
空の端の夜の尻尾を
つかんで引き戻したい位
闇に馴染んだ目が痛い

まぶしく白い光が
僕を溶かしてしまいそう
跡形もなく溶けるなら
むしろ望んでみたいけど

焦ったり妬んだり僻んだり怒ったり
醜い感情程 それはもう 鮮やかに
僕の中に息づいて 僕の形してるから
「そんなモノ 僕じゃない」と
言いたい内は溶けられない

この胸の泥の奥の底
その声をあげたのは何だ?
僕の押し殺した息
僕が忘れたふりの僕
僕にようやく聞こえた
青い月よ 消えないで
この胸の叫びは飼い慣らせないから

☆.。.:*・゜


 クリスタルの結晶のような声だと思っていた。透き通っている。尖っている。硬く、きらめいている。
 歌うと、それだけじゃない。
 しなやかな体温。のびやかな吐息。壊れやすそうに優しい響きだ。乱暴に扱ったら、張り裂けてしまいそう。
 でも、強く輝く芯が、確かに通っている。この人は、語りたい何かを持っている。それを声に載せている。
 耳が拾う言葉、おなかに響くリズム、脳を貫くサウンド。そのすべてを優しく呑み込んで歌う煥先輩の声には、魔法みたいなチカラがある。わたしの胸に、歌う想いがまっすぐ染み込んでくる。
 煥先輩が、そっと目を開けた。


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幸せってモノは たぶん
噛み締めると塩辛くて
苦くて渋くて そして
香ばしくて少し甘い

息が切れるまで ずっと
声が続く限り もっと
燃え尽きる位 歌えたら
僕は幸せなんだよ

ぬるま湯のうたた寝の安っぽい白昼夢
甘くだるい嘘程 それはもう 本物臭く
幸せを名乗っては 僕をたぶらかそうと
ひたひたと近付いて
歌う僕を嘲笑う

この声が君に届くなら
その臆病な目を開いて
僕の輪郭に触れて
僕が此処に居る事を
僕に教えてくれないか
青い月を見上げれば
この胸の叫びは飼い慣らせないから

☆.。.:*・゜


 曲が間奏に入る。煥先輩がかすかな笑みを浮かべた。薄い唇が柔らかな形をつくった瞬間、わたしはドキッとする。
 ギターが華々しく踊り回る。煥先輩は文徳先輩を見やった。わたしも慌てて、煥先輩から目をそらす。
 間奏は文徳先輩の晴れ舞台。感情を吐き出すように、雄弁に語り明かす代わりに、理屈をかなぐり捨てるみたいに、文徳先輩の素顔をギターが主張する。
 知らなかった。文徳先輩の、こんなに奔放な姿。自由で猛々しい表情。
 文徳先輩が煥先輩に目配せして、歌が再開する。


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夜を怖いと思わなくなったのはいつだろう?
寝ずに過ごす夜程 それはもう 大切っぽく
僕と僕を向き合わせ 過去・現在・未来まで
透き通る闇の中
映し出す 暴き立てる

その声が僕に届いたよ
この臆病な手を挙げて
君の輪郭に触れて
君が其処に居る事を
君と僕で確かめたい
青い月の面に映る
この胸の叫びは飼い慣らせないから

☆.。.:*・゜


 煥先輩の目が、不意にわたしを見つめた。声と同じ、不思議に透き通ったまなざし。
 熱に似た何かが伝わってくる。染み込んでくる。わたしの胸に広がる。
 気付いたら、両目から涙が転げ落ちていた。