寧々ちゃんたちと合流すると、大騒ぎになった。
「お嬢! 何で煥先輩と一緒にいるの?」
「えっと。ボディガード、みたいな」
「すごーい! 姫って感じ!」
「姫?」
「あー、ほら、ケータイ小説とかにあるの。暴走族に守られてる唯一絶対の女の子のこと、姫って呼ぶんだよね」
 煥先輩が舌打ちした。
「くだらねえ。瑪都流にそれがいるなら、亜美さんだ」
 順一先輩が爽やかに笑った。
「亜美先輩は幹部で、戦闘要員だろ? 寧々が言う姫のポジションとは毛色が違うって」
 煥先輩がまじまじと順一先輩を見た。順一先輩の笑いが苦笑いになる。
「おれの顔、わかんないのか? 去年から同じクラスだろうが。尾張順一だよ」
「ああ、あんたか」
「ほんっとにマイペースだな」
 弟のほうの尾張くんが、煥先輩にまとわりついた。
「煥先輩、おれら、瑪都流に入りたいっす! 前は烈花《れっか》のメンバーだったんすけど、解体したじゃないすか。緋炎《ひえん》が今、烈花の残党狩りやってて、ヤバいんすよ」
 煥先輩は気だるそうに言った。
「話は聞いてる。が、オレに相談されても仕方ない。兄貴に話せ。今日の放課後、ストリートで歌う。そんときに来い」
 わたしは煥先輩に訊き返した。
「今日の放課後はライヴなんですか? 軽音部室での練習じゃなくて?」
「ああ、ストリートライヴだ。最終下校時刻より早く学校を出る。あんたに伝え忘れたと、兄貴が言ってた。聴きに来るのが無理なら、適当なメンバーに家まで送らせるから……」
「行きます!」
 文徳先輩がギターを弾くのを見たい。ロックバンドの演奏を聴くのは初めてで、ワクワクする。
 クラシック音楽やミュージカルの鑑賞は好きだ。ロックも、きっと好きになれる。文徳先輩が好きな音楽なんだもの。
 寧々ちゃんがわたしに抱き付いた。
「お嬢、一緒に行こ! あたし、今日の部活は規定練だけで上がるから!」
「やった! うん、一緒に行こう!」
 わたしはポーチ越しにツルギに触れた。トクン、トクン、と青獣珠の鼓動が伝わってくる。三日月のアミュレットが朝日にきらめく。
 この恋、叶いますように。
 文徳先輩を思い出しながら、わたしは小さな三日月に念じる。昨日、わたしを支えてくれた胸は温かかった。力強い腕に、ずっと抱かれていたかった。
「お嬢、トリップしてるよ?」
「な、何でもないよ」
 放課後のライヴが待ち遠しい。