「……らっ、煥っ!」
 揺さぶられて、ハッとした。兄貴が、泣き笑いみたいな顔をした。
 オレは跳ね起きた。全身が痛い。いや、打っただけだ。このくらいなら動ける。
「オレは気を失ってたのか?」
「ああ。数十秒間だけどな」
「全員、ケガは?」
「問題ない。煥の障壁《ガード》がなかったらヤバかった。助かった」
 出入口は、爆発の衝撃でふさがっている。海牙が立ち上がった。
「問題ありませんよ。店には申し訳ないけどね」
 軽く助走をつける。跳躍と同時に、長い脚が、ひしゃげた壁を蹴った。ドアの残骸が吹っ飛んだ。
 オレたちは外へ走り出た。車が一台、やや離れた場所に止まっている。ヘッドライトが視界に突き刺さる。目を細めながら、シルエットになった正木をにらんだ。
「白獣珠を返せ!」
 正木が大げさに肩をすくめた。千切れた鎖をつかんで、白獣珠を掲げる。
「試してみたくなる」
 試す? 何を? ゾクリと、背筋に寒気が走った。
 正木が車のほうを振り返った。運転席に世良がいる。
「朱獣珠の理仁くんがチカラを使い始めてから何分経った? ……そうか。まだ八分か。試してみるには、ちょうどいいかもしれんな」
 理仁は五十メートルくらい向こうの空き地にいる。人垣が低い。腰を下ろした姿勢だ。その中心で、理仁ひとりが仁王立ちになっている。
 正木が師央の白獣珠を見つめる。息がかかるほど、顔のそばまで近付ける。
「白獣珠よ、応えよ」
 飛び出そうとして、オレは足を止めた。世良が運転席の窓から銃を突き出している。
 オレの胸で、オレの白獣珠が反応しかける。ダメだ、違う。あんたじゃない。あんなやつの声なんか聞くな。オレは白獣珠を握りしめた。白獣珠が、うなずくような拍動をオレの手のひらに伝える。
 正木が、師央の白獣珠へ呼びかけた。
「長江理仁のチカラを止めたい。今あそこにいる全員に及ぼしているチカラを。白獣珠のチカラで、号令《コマンド》を解除させろ。代償は、この身に、必要なだけの傷を付けろ」
 正木がそれを命じた瞬間、師央の白獣珠がチカチカと、またたいた。声が聞こえた気がした――おまえの願い、聞き入れた。
 刹那。白い閃光がほとばしった。正木の右頬に傷が走る。たらりと血が流れた。
 ふらりと倒れる理仁が見えた。座り込んでいた人垣が、ざわめいて立ち上がった。理仁の姿が見えなくなる。兄貴が理仁の名を絶叫して、そっちへ向かって駆け出す。
 車のドアが開く音。正木が助手席のそばで、ニヤリとした。
「彼はずいぶん無理していたようだ。この程度の傷を代償にするだけで倒れてしまうとは」
 正木は車に乗り込んだ。車が走り去る。
 雄たけびが聞こえた。緋炎の総攻撃が始まった。