海牙が首のストールをほどいた。と同時に。
パンッ!
銃声。海牙がストールを振るう。あり得ない速度で、布地がひらめいた。
カツン、とストールに払い落とされたのは、銃弾だ。狙いは師央だった。海牙は、破れたストールを捨てた。銃口を向ける世良をにらむ。
「やはり、あなたは残りましたか。能力者の血縁だから、耐性があるんでしたっけ」
不意に殺気を感じた。世良とは逆の位置からだ。
考えるより先に体が動いた。海牙の後頭部を狙うライン上へと飛び込む。銃口が火を噴く。白い光の障壁《ガード》が出現する。
バシッ!
銃弾が障壁《ガード》にぶつかって消滅する。
暗がりから、ゆらりと、男が姿を見せた。二十代後半ってところか。細身で、爬虫類みたいな目つきをしている。
「正木か?」
オレの問いかけに、男は笑った。
「阿里くんが紹介してくれたようだな。そう、私が正木竜清だ」
銃、ではなかった。正木が海牙への狙撃《スナイピング》に使ったモノは、右手だ。子どもが人差し指でピストルのまねをするみたいに。でも、本物だ。正木の指先に、闇が凝り固まった。
能力、狙撃《スナイピング》。
正木の指先から撃ち出された銃弾が、オレの障壁《ガード》に衝突して焼け尽きる。オレの背後で海牙が解説した。
「大気中の窒素を固定して固体化し、銃弾にする。窒素は、大気の八割を占める元素です。地球上にいる限り、正木さんの銃弾は無限に近い」
理仁の号令《コマンド》に懸かった全員が表に出た。店内に残るのは、七人。オレと兄貴、海牙は戦える。ただ、鈴蘭と師央をかばわなきゃいけない。そして、オレたちを挟んで立つ二人。正木と世良。
「煥っ」
駆け寄ろうとする兄貴が、足を止める。正木と世良の左手が同時に、兄貴を狙った。
正木が油断なく、オレたちを見据えている。
「戦闘訓練を受けた大人を甘く見るなよ。傷付けることが目的じゃないんだ。四獣珠を渡してくれるだけでいい。できれば、伊呂波師央くん、きみの白獣珠がいいかな。どうやら最も質量が大きいようでね。野放しにしていては、総統にご負担がかかるのだ」
師央が、オレの背中側でビクッとした。オレは舌打ちした。
「師央、体を低くしてろ。鈴蘭もだ。オレのそばから離れるな」
鈴蘭も師央も、オレの後ろで体を縮めた。海牙が鋭くささやいた。
「守りに徹するつもりですか?」
「オレと海牙だけなら、突っ込むけどな」
「確かにね。でも、ぼくたちは肉弾戦、あちらは銃。ちょっと不利ですよ、今の状況は」
兄貴が撃たれる可能性は低い。あいつらの狙いは四獣珠だ。
ただ、このまま膠着状態が続いたんじゃ、マズい。理仁の号令《コマンド》は、せいぜい十五分だ。それを過ぎたら、緋炎が暴れ出す。
正木が笑った。
「痛い目を見たいのかな?」
指先の銃口が、また火を噴いた。次々と撃ち込まれる。チカラを帯びた銃弾だが、オレの障壁《ガード》には勝てない。
でも、らちが明かない。尽きない銃弾、破れない障壁《ガード》。正木が、じりじりと近付いてくる。オレは動けない。鈴蘭と師央を守らなきゃいけない。
正木が両手の銃口をオレに据える。障壁《ガード》にぶつかる手応えが重くなる。正木が、歪んだ笑みを浮かべた。
「銀髪の守将《ガーディアン》よ、いつまで耐えられるかな?」
まだ問題ない。守りを固めるだけなら、続けていられる。
オレは横目で兄貴を見やる。兄貴は飛び出す隙をうかがってる。正木の狙いから外れた今、兄貴にはチャンスが増えた。
銃弾の尽きない正木は、左右の手で撃ち続ける。一方、世良は動かない。オレはチラリと振り返る。世良は銃口を兄貴と海牙に向けたままだ。抑えの役割ってところか。
オレは小声で海牙に言った。
「各個撃破するしかないな。海牙と兄貴で、世良をやってくれ」
「背後がガラ空きになりますよ?」
「オレの障壁《ガード》は、一枚でおしまいじゃないぜ。障壁《ガード》でドームを作ることもできる」
「正六角形ですもんね。安定したハニカム構造の立体を組み立てられる。じゃあ、こちらはお任せしますよ。でも、どうしようかな? 文徳くんと連携するきっかけがない」
師央が小さく咳払いをして、声のトーンを変えた。
【文徳さん!】
師央の能力、習得《ラーニング》。理仁の号令《コマンド》をまねている。飛ばしたい相手にだけ飛んでいく声だ。
正木の表情をうかがう。二丁拳銃で攻め立てることを楽しむ顔。大丈夫だ。師央の声は聞こえてない。
【文徳さん、そのまま聞いてください。海牙さんが今から世良さんに反撃します。文徳さんも呼応してください。ぼくが合図します。4カウントでいきますよ】
そこは普通、「一、二の三」だろ。バンドかよ。師央らしい言い方に、笑いそうになる。
師央がカウントを取った。
【1・2・3・4!】
パンッ!
銃声。海牙がストールを振るう。あり得ない速度で、布地がひらめいた。
カツン、とストールに払い落とされたのは、銃弾だ。狙いは師央だった。海牙は、破れたストールを捨てた。銃口を向ける世良をにらむ。
「やはり、あなたは残りましたか。能力者の血縁だから、耐性があるんでしたっけ」
不意に殺気を感じた。世良とは逆の位置からだ。
考えるより先に体が動いた。海牙の後頭部を狙うライン上へと飛び込む。銃口が火を噴く。白い光の障壁《ガード》が出現する。
バシッ!
銃弾が障壁《ガード》にぶつかって消滅する。
暗がりから、ゆらりと、男が姿を見せた。二十代後半ってところか。細身で、爬虫類みたいな目つきをしている。
「正木か?」
オレの問いかけに、男は笑った。
「阿里くんが紹介してくれたようだな。そう、私が正木竜清だ」
銃、ではなかった。正木が海牙への狙撃《スナイピング》に使ったモノは、右手だ。子どもが人差し指でピストルのまねをするみたいに。でも、本物だ。正木の指先に、闇が凝り固まった。
能力、狙撃《スナイピング》。
正木の指先から撃ち出された銃弾が、オレの障壁《ガード》に衝突して焼け尽きる。オレの背後で海牙が解説した。
「大気中の窒素を固定して固体化し、銃弾にする。窒素は、大気の八割を占める元素です。地球上にいる限り、正木さんの銃弾は無限に近い」
理仁の号令《コマンド》に懸かった全員が表に出た。店内に残るのは、七人。オレと兄貴、海牙は戦える。ただ、鈴蘭と師央をかばわなきゃいけない。そして、オレたちを挟んで立つ二人。正木と世良。
「煥っ」
駆け寄ろうとする兄貴が、足を止める。正木と世良の左手が同時に、兄貴を狙った。
正木が油断なく、オレたちを見据えている。
「戦闘訓練を受けた大人を甘く見るなよ。傷付けることが目的じゃないんだ。四獣珠を渡してくれるだけでいい。できれば、伊呂波師央くん、きみの白獣珠がいいかな。どうやら最も質量が大きいようでね。野放しにしていては、総統にご負担がかかるのだ」
師央が、オレの背中側でビクッとした。オレは舌打ちした。
「師央、体を低くしてろ。鈴蘭もだ。オレのそばから離れるな」
鈴蘭も師央も、オレの後ろで体を縮めた。海牙が鋭くささやいた。
「守りに徹するつもりですか?」
「オレと海牙だけなら、突っ込むけどな」
「確かにね。でも、ぼくたちは肉弾戦、あちらは銃。ちょっと不利ですよ、今の状況は」
兄貴が撃たれる可能性は低い。あいつらの狙いは四獣珠だ。
ただ、このまま膠着状態が続いたんじゃ、マズい。理仁の号令《コマンド》は、せいぜい十五分だ。それを過ぎたら、緋炎が暴れ出す。
正木が笑った。
「痛い目を見たいのかな?」
指先の銃口が、また火を噴いた。次々と撃ち込まれる。チカラを帯びた銃弾だが、オレの障壁《ガード》には勝てない。
でも、らちが明かない。尽きない銃弾、破れない障壁《ガード》。正木が、じりじりと近付いてくる。オレは動けない。鈴蘭と師央を守らなきゃいけない。
正木が両手の銃口をオレに据える。障壁《ガード》にぶつかる手応えが重くなる。正木が、歪んだ笑みを浮かべた。
「銀髪の守将《ガーディアン》よ、いつまで耐えられるかな?」
まだ問題ない。守りを固めるだけなら、続けていられる。
オレは横目で兄貴を見やる。兄貴は飛び出す隙をうかがってる。正木の狙いから外れた今、兄貴にはチャンスが増えた。
銃弾の尽きない正木は、左右の手で撃ち続ける。一方、世良は動かない。オレはチラリと振り返る。世良は銃口を兄貴と海牙に向けたままだ。抑えの役割ってところか。
オレは小声で海牙に言った。
「各個撃破するしかないな。海牙と兄貴で、世良をやってくれ」
「背後がガラ空きになりますよ?」
「オレの障壁《ガード》は、一枚でおしまいじゃないぜ。障壁《ガード》でドームを作ることもできる」
「正六角形ですもんね。安定したハニカム構造の立体を組み立てられる。じゃあ、こちらはお任せしますよ。でも、どうしようかな? 文徳くんと連携するきっかけがない」
師央が小さく咳払いをして、声のトーンを変えた。
【文徳さん!】
師央の能力、習得《ラーニング》。理仁の号令《コマンド》をまねている。飛ばしたい相手にだけ飛んでいく声だ。
正木の表情をうかがう。二丁拳銃で攻め立てることを楽しむ顔。大丈夫だ。師央の声は聞こえてない。
【文徳さん、そのまま聞いてください。海牙さんが今から世良さんに反撃します。文徳さんも呼応してください。ぼくが合図します。4カウントでいきますよ】
そこは普通、「一、二の三」だろ。バンドかよ。師央らしい言い方に、笑いそうになる。
師央がカウントを取った。
【1・2・3・4!】