大都高校前で、海牙と別れた。立ち去り際、海牙は忠告を寄越した。
「さっきの狙撃者はKHANの関係者です。おそらくあの二人だけの……いや、能力者のほうの独断で動いている。一般人のほうは、命じられているだけでしょう。何にせよ、狙撃能力の高い二人です。今後も気を付けてください」
その二人が何者なのか、海牙はハッキリとは言わなかった。動機がわからないから、断定できないらしい。わかり次第、連絡すると約束した。
それから、師央を家の前で降ろした。身軽になった理仁の自宅まで、バイクで同行した。最後に鈴蘭を送った。
鈴蘭が門をくぐると、門衛が格子を閉めた。格子の向こうで、鈴蘭がオレを呼び止めた。
「煥先輩、今日、ずっと乗せてくれて、ありがとうございます」
「いや、別に」
「それと、わたし、ごめんなさい。いつもいつも、申し訳ないんです」
オレはメットを外して脇に抱えた。広がった視野の真ん中で、鈴蘭が下を向いた。
「何で謝る?」
「わたし、何の役にも立ってないから」
「またそんなこと言うのか?」
「煥先輩は強いから、わからないですよね、わたしの無力感」
小さな白い顔。細い肩。弱々しい立ち姿。不意に、平井に植え付けられた恐怖を思い出す。鈴蘭を襲おうとしたオレ自身を。
「謝るのは、オレのほうだ。平井の屋敷で、怖い思いをさせた。悪かった」
平井の声が脳裏によみがえる。最も襲いたくない相手、最も守るべきだと信じる相手。オレは迷うことなく、鈴蘭を選んだ。弱くて、うまそうで、美しくて、支配したいと思ってしまった。
でも同時に、本能的に引き千切られそうなくらい痛感した。男が命を懸けて守りたい存在は、一生に一人きりの、愛する女。
じゃあ、オレにとって、鈴蘭は?
オレはメットをかぶり直した。考えるのをやめた。
「また明日、迎えに来る」
アクセルを回す。鈴蘭の声が聞こえた気がした。でも、訊き返さなかった。
オレはバイクを駆って、一陣の風になる。何も考えずに、ただ走る。
「さっきの狙撃者はKHANの関係者です。おそらくあの二人だけの……いや、能力者のほうの独断で動いている。一般人のほうは、命じられているだけでしょう。何にせよ、狙撃能力の高い二人です。今後も気を付けてください」
その二人が何者なのか、海牙はハッキリとは言わなかった。動機がわからないから、断定できないらしい。わかり次第、連絡すると約束した。
それから、師央を家の前で降ろした。身軽になった理仁の自宅まで、バイクで同行した。最後に鈴蘭を送った。
鈴蘭が門をくぐると、門衛が格子を閉めた。格子の向こうで、鈴蘭がオレを呼び止めた。
「煥先輩、今日、ずっと乗せてくれて、ありがとうございます」
「いや、別に」
「それと、わたし、ごめんなさい。いつもいつも、申し訳ないんです」
オレはメットを外して脇に抱えた。広がった視野の真ん中で、鈴蘭が下を向いた。
「何で謝る?」
「わたし、何の役にも立ってないから」
「またそんなこと言うのか?」
「煥先輩は強いから、わからないですよね、わたしの無力感」
小さな白い顔。細い肩。弱々しい立ち姿。不意に、平井に植え付けられた恐怖を思い出す。鈴蘭を襲おうとしたオレ自身を。
「謝るのは、オレのほうだ。平井の屋敷で、怖い思いをさせた。悪かった」
平井の声が脳裏によみがえる。最も襲いたくない相手、最も守るべきだと信じる相手。オレは迷うことなく、鈴蘭を選んだ。弱くて、うまそうで、美しくて、支配したいと思ってしまった。
でも同時に、本能的に引き千切られそうなくらい痛感した。男が命を懸けて守りたい存在は、一生に一人きりの、愛する女。
じゃあ、オレにとって、鈴蘭は?
オレはメットをかぶり直した。考えるのをやめた。
「また明日、迎えに来る」
アクセルを回す。鈴蘭の声が聞こえた気がした。でも、訊き返さなかった。
オレはバイクを駆って、一陣の風になる。何も考えずに、ただ走る。