放課後に校門の前で、と海牙は言っていた。何時にとか、案外ごった返してる校門付近のどこでとか、具体的な指定はなかった。
「ちゃんと合流できるでしょうか?」
 師央も心配していた。が、何の心配もいらなかった。女子って、声高に噂話をするもんだよな。本人の耳に入りそうな場所で。
「あの制服、大都だよ。偏差値七十五がザラなんでしょ?」
「頭いい上に超イケメンじゃん! 背ぇ高いし、モデルみたい」
「大都にも、あんな人いるんだ。しかもお金持ち?」
「だよね、大都だもんね」
 女子の視線が集まる先に、いた。グレーの詰襟の海牙が、軽く街路樹にもたれている。傍らにスポーツバッグがあった。
 理仁が口笛を吹いた。
「モテそうなやつだね~。おれと張り合うレベル? あの大都の悲惨な制服なのに、墓石グレーが、ここまで印象変わるかねぇ?」
 海牙がオレたちに気付いて、笑顔で小さく片手を挙げた。
「こんにちは。お待ちしてましたよ、皆さん」
 まわりの女子が、またざわめいた。組み合わせが奇妙すぎるからだろう。正直な反応だとは思うが、ウザい。
「ここは人が多い。さっさと移動するぞ」
「ええ。そうみたいですね。ところで、今日は徒歩ですか?」
「ああ」
「バイクを取りに帰ってもらえます? 一緒に来てほしい場所がちょっと遠方なんですよ」
 自宅のマンションは徒歩圏内だ。バイクを取りに戻るのは、手間でもない。了解すると、海牙は理仁にも言った。
「長江理仁くん、きみもバイクを持ってますよね?」
「取って来いってことかい?」
「そうしてもらえますか?」
「へいへい。ちなみに中型だけど、いいよね?」
「後ろに一人乗せられるなら、十分です」
「いけるいける。んじゃ、ひとっ走り取ってくるゎ」
 三十分後にオレのマンションの前で再集合、ということになった。
 オレは、鈴蘭、師央、海牙とともに帰宅した。海牙を連れていくのには抵抗があった。が、どうせ、とっくに住所なんて知られている。
 三人をガレージの外で待たせておいた。オレは制服からライダースーツに着替えた。若干、暑い。三人ぶんのメットを持ってガレージに下りる。
 愛車を表に出したところで、理仁が合流した。ラフなジーンズ姿。グローブとブーツだけはライダー用のものだ。
 オレのマシンを見るなり、鈴蘭が目を見張った。
「バイクって、こんなに大きいんですか」
「ここまでデカいのは、あんまりない。重くて操りにくいからな」
「でも、煥先輩は乗れるんですね。すごい!」
 単純な誉め言葉。でも、ドキッとした。
 海牙がスポーツバッグを開けた。ローラースケートを取り出して、革靴から履き替える。
 理仁がキョトンとした。
「そんなもん履いて、どーすんの?」
「移動手段ですよ。今日は走る気分じゃないんでね、滑っていこうかと思います。ぼくが先行するから、ついて来てください」
 海牙は革靴をスポーツバッグにしまい込んで、バッグを肩から斜めに掛けた。ポケットからバイザーを出して装着する。
「え、ちょい待ち。海ちゃん、バイクの前を滑ってく気?」
「そのとおりですよ、リヒちゃん。ぼくの能力、披露します」
 鈴蘭と師央にメットを渡した。師央はすぐにかぶったが、鈴蘭は顎紐に、もたついている。微妙に斜めになってるから、キャッチが留まらないんだ。不器用な様子に、ため息が出る。勉強はできるらしいが、要領は悪そうだ。運動も苦手と言ってた気がする。
「じっとしてろ」
 鈴蘭の頭にメットをかぶせ直す。顎紐を留めてやる。首筋に触れないように気を付けた。でも、髪に触れてしまった。うっかり鈴蘭の顔を見たら、頬が赤い。オレにもそれがうつった。顔が熱い。
 ひゅー、と口笛がハモった。音のほうをにらむと、海牙と理仁だ。
「そういう仲だったんですか」
「見せつけてくれちゃって~」
 師央がいそいそと理仁のマシンに近寄った。
「じゃ、理仁さんに乗せてもらいますね。鈴蘭さんは煥さんの後ろで」
「ちょ、ちょっと、師央くん!」
 理仁がバイクのスタンドを蹴った。
「ふぅん、鈴蘭ちゃんはおれのほうがいい? おれにギューッとしがみついちゃう?」
「イヤです!」
「じゃ、あっきーにギューッとしててね~」
「えぇえぇっ!」
 意識しちゃダメだ。走りに集中しよう。
「ぐずぐずするな。乗れ」
 集中しろよ、オレ。事故るぞ。