「これは何が起こってるんだ?」
校庭で、女子が二人の男に群がっている。普段の登校中の挨拶攻めなんて、比じゃない。比喩でも何でもなく、本当に群がっている。
「どうしちゃったの、この人たち? ボーっとして、顔が真っ赤」
群がった女子たちは、中心に立つ二人の背の高い男に見惚れてるらしい。
男の片方は、知らない。明るい色の髪で、女にモテそうな顔をしてる。事実、両腕に女を抱き寄せている。
もう片方は、言わずと知れた兄貴だ。しかも、兄貴の背中に抱き付いてるのは亜美さんだ。二人とも、人前でイチャつくキャラじゃないんだが。
何百人いるんだろう? ってくらいの女子の群れだ。教職員も交じってる。男子の姿もちらほらある。
師央がリュックサックを胸に抱いた。
「先に進めませんね。しかも、どんどん数が膨らんでいくし」
登校してきた連中が、わらわらと、兄貴たちに見惚れる群れに加わる。集団催眠にでもかかったみたいだ。
ふと、兄貴がオレを見た。右手を挙げる。兄貴の隣の男が、兄貴に話しかけた。
【ん? あれが噂の弟くん?】
嘘だろ。どうして声がここまで届く? そんなにハッキリと。百メートルは離れてるし、間は人だらけなのに。受け答えする兄貴の声は、まったく聞こえない。
【弟くん、困ってるっぽいね~。前に進めませんって感じ? みんな聞いて~!】
異様に響き渡る声が呼びかけた。その瞬間、水を打ったように、世界が静まり返った。
【道、開けてやって~!】
音、じゃなかった。そいつの声は、音じゃない何かが本体だ。だから、異様に遠くまで聞こえてくる。声なのに音じゃないって意味では、白獣珠の声と似てる。
人の群れが割れた。そいつの命令に、完璧に従うみたいに。
【ほらほら、弟くん、おいでよ~。一緒に女の子たちに囲まれようぜ。弟くんファンも多いって聞いてるよ~】
そのとたん、そこここで声があがる。
「煥先輩、今日もクール!」
「カッコいいよね、煥先輩!」
また何だか面倒くさいことになってきてる。オレはうんざりして、ため息をついた。
「とりあえず、行くか」
歩き出すオレの後ろに、鈴蘭と師央がついて来る。人垣の中にできた道は、熱気がすごい。小声のつぶやきが、ときどき聞こえてくる。
「超カッコいい」
「イケメンすぎる」
「暴走族で近寄りがたくて」
「でも、生徒会長のほうが」
「彼女さん、うらやましい」
「生徒会、入ろうかな」
不気味だ。無防備すぎる。好意だか好奇心だかが、駄々漏れになっている。ここまで本心をむき出しにするなんて異常だ。
校庭で、女子が二人の男に群がっている。普段の登校中の挨拶攻めなんて、比じゃない。比喩でも何でもなく、本当に群がっている。
「どうしちゃったの、この人たち? ボーっとして、顔が真っ赤」
群がった女子たちは、中心に立つ二人の背の高い男に見惚れてるらしい。
男の片方は、知らない。明るい色の髪で、女にモテそうな顔をしてる。事実、両腕に女を抱き寄せている。
もう片方は、言わずと知れた兄貴だ。しかも、兄貴の背中に抱き付いてるのは亜美さんだ。二人とも、人前でイチャつくキャラじゃないんだが。
何百人いるんだろう? ってくらいの女子の群れだ。教職員も交じってる。男子の姿もちらほらある。
師央がリュックサックを胸に抱いた。
「先に進めませんね。しかも、どんどん数が膨らんでいくし」
登校してきた連中が、わらわらと、兄貴たちに見惚れる群れに加わる。集団催眠にでもかかったみたいだ。
ふと、兄貴がオレを見た。右手を挙げる。兄貴の隣の男が、兄貴に話しかけた。
【ん? あれが噂の弟くん?】
嘘だろ。どうして声がここまで届く? そんなにハッキリと。百メートルは離れてるし、間は人だらけなのに。受け答えする兄貴の声は、まったく聞こえない。
【弟くん、困ってるっぽいね~。前に進めませんって感じ? みんな聞いて~!】
異様に響き渡る声が呼びかけた。その瞬間、水を打ったように、世界が静まり返った。
【道、開けてやって~!】
音、じゃなかった。そいつの声は、音じゃない何かが本体だ。だから、異様に遠くまで聞こえてくる。声なのに音じゃないって意味では、白獣珠の声と似てる。
人の群れが割れた。そいつの命令に、完璧に従うみたいに。
【ほらほら、弟くん、おいでよ~。一緒に女の子たちに囲まれようぜ。弟くんファンも多いって聞いてるよ~】
そのとたん、そこここで声があがる。
「煥先輩、今日もクール!」
「カッコいいよね、煥先輩!」
また何だか面倒くさいことになってきてる。オレはうんざりして、ため息をついた。
「とりあえず、行くか」
歩き出すオレの後ろに、鈴蘭と師央がついて来る。人垣の中にできた道は、熱気がすごい。小声のつぶやきが、ときどき聞こえてくる。
「超カッコいい」
「イケメンすぎる」
「暴走族で近寄りがたくて」
「でも、生徒会長のほうが」
「彼女さん、うらやましい」
「生徒会、入ろうかな」
不気味だ。無防備すぎる。好意だか好奇心だかが、駄々漏れになっている。ここまで本心をむき出しにするなんて異常だ。