その瞬間、まばたきひとつぶんの間に、いくつものことが連鎖的に起こった。
敵意の飛来を感じた。飛び道具だ。
カバンを捨てた。右の手のひらにチカラを集める。地面を蹴って飛び出す。左腕で安豊寺を抱える。右手を肩の高さに掲げた。光の障壁《ガード》を展開する。
バシッ!
障壁《ガード》に何かが衝突して燃え尽きた。粉砕したモノの破片がパラパラと落ちる。それが何かに気付いて、ゾッとした。
銃弾。
もちろん実弾だ。順一たちが使ってたエアガンのBB弾とはわけが違う。
「師央、走るぞ。銃で狙われてる」
突っ立ってる師央の正面に、オレは踏み込んだ。師央を背中にかばう。
バシッ!
二度目の銃弾が飛来して、消滅する。これは緋炎の仕業なのか? あいつら、銃にまで手を出してるのか?
「ちょ、下ろして!」
オレの左腕の中で安豊寺が暴れた。黙っててくれないと抱えにくい。
「じっとしてろ」
「へ、変なとこ、さわらないでっ!」
言われて初めて気付いた。手のひらに当たる感触の柔らかさ。ヤベぇ、気持ちい……じゃなくて! オレは慌てて安豊寺を突き放した。
「オ、オレは、別に、さわるつもりはっ」
「ムッツリスケベ!」
「ち、違うっ」
「最低!」
「誤解だ!」
三度目。空気の裂ける音。展開したままの障壁《ガード》に、手応え。
バシッ!
安豊寺が息を呑む。師央が震える声を絞り出す。
「銃声、聞こえないのに」
「サイレンサー付きの遠距離ライフルだろうな。狙われたのがオレじゃなきゃ、死んでる。でも、たぶん狙撃は終わりだ。直接攻撃の連中が来た」
オレが言い終わるより先に、マフラー音が聞こえ始めた。閑静な住宅地をバイクの集団が爆走してくる。
安豊寺が吐き捨てるように言った。
「暴走族って、騒々しい。あんな音させて、どこがカッコいいの?」
「同感だな。下手くそが改造すると、あんな音にしかならない。無駄に重くなって、走行の性能も落ちる」
思わず本音を口にした。安豊寺は無視。おい、この嫌われ方は、さすがに不本意だぞ。
住宅地を巡る坂道の下のほうから、ヘッドライトが現れた。五台、か。突っ込んでこられたら厄介だが。
「おまえら、下がってろ」
言いながら、師央と安豊寺を追いやる。どこかの邸宅を囲う塀に背中を預ける形だ。
あっという間に、五台のバイクに囲まれた。五台とも全部、真っ赤に塗りたくられたハーレー。ボディに緋炎のロゴがスプレーされている。
いかつい体格の男が五人、ハーレーを降りた。メットを脱いだやつが一人いる。顔を知ってる。幹部だ。
「よぉ、銀髪。昨日はうちの下っ端どもが世話になったな。あんなレベルじゃ退屈だっただろ? ってことで、骨のあるのを連れて来たぜ」
無駄に律儀な男だ。報復しに来たんだろう? バイクで突っ込んでくれば話は早いのに、わざわざ挨拶付きの決闘とは。
「どけ、邪魔だ」
「邪魔だってんなら、どかしてみな?」
「痛い目を見るぜ」
「そりゃこっちのセリフだ」
「忠告するが、銃はやめとけ。足が付きやすい」
「何言ってやがんだ、あぁ? ダラダラおしゃべりしてる時間はねぇんだよ。やれ」
幹部が顎をしゃくった。三人の男が飛びかかってきた。遅い。そして、バラバラだ。
一人目のナイフをかいくぐって、そのみぞおちに肘を叩き込む。体勢を沈めた流れに乗せて、回し蹴り。二人目の脚を払う。三人目の拳の軌道を上腕でそらす。前のめりの敵の体に、膝をぶち込む。ダメージの浅い二人目の腰を踏む。
これで三人とも、しばらく起き上がれない。あと二人。
前進して、幹部との距離を詰める。跳躍。かかとを頭上に落とす。ヒットする直前、勢いを殺した。でなきゃ、こいつの命がない。幹部は声もなく沈んだ。あと一人。
振り返って、舌打ちする。刃渡りの長いナイフが光っていた。安豊寺を狙っている。オレは飛び込んだ。角度が悪い。敵へのカウンターは望めない。ナイフの正面に、左腕を差し出した。
焼け付く痛みが上腕に走った。体勢を崩しながらも、敵を突き飛ばす。
「煥先輩!」
背中の後ろで安豊寺が叫んだ。敵が視線を動かした。オレから、師央へと。
「危ねぇっ!」
敵がナイフを振りかざして、師央に突っ込む。師央は右手を突き出して、目を見開いて立ち尽くしている。
瞬間、オレは目を疑った。師央の手のひらの正面、何もない空間に、光が集まる。
敵が師央に襲い掛かった。その瞬間、障壁《ガード》を形作る光がクッキリと見えた。敵が弾き飛ばされながら悲鳴をあげる。ヘルメットが煙を上げて焼け焦げた。異臭が混じる。たぶん、髪が焼けた匂いだ。
師央が、へたり込みそうになった。オレは駆け寄って、その腕をつかんだ。
「おまえ、今、何をした!?」
「障壁《ガード》を、出しました」
「オレの能力を、どうして?」
「見よう見まね、です」
オレは唇を噛んだ。師央には謎が多すぎる。考えがまとまらない。考えても仕方がない。今は、現実だけを見るほうがいい。
「まずはここを離れる。走れ。とりあえず、安豊寺の家を目指す」
危険を感じたら、進路を変えればいい。勘だが、今日の襲撃はこいつらだけだと思う。
そもそも、良識ある住宅地で仕掛けること自体、失策だ。今ごろ、誰かが通報してるだろう。伸びてるこいつらは、警察に回収される。
オレは、自分と安豊寺のカバンを拾った。安豊寺の足に合わせて、坂を駆け上がる。
傷の痛みが拍動している。でも、たいした深さの傷じゃない。このくらいなら、すぐにふさがる。
敵意の飛来を感じた。飛び道具だ。
カバンを捨てた。右の手のひらにチカラを集める。地面を蹴って飛び出す。左腕で安豊寺を抱える。右手を肩の高さに掲げた。光の障壁《ガード》を展開する。
バシッ!
障壁《ガード》に何かが衝突して燃え尽きた。粉砕したモノの破片がパラパラと落ちる。それが何かに気付いて、ゾッとした。
銃弾。
もちろん実弾だ。順一たちが使ってたエアガンのBB弾とはわけが違う。
「師央、走るぞ。銃で狙われてる」
突っ立ってる師央の正面に、オレは踏み込んだ。師央を背中にかばう。
バシッ!
二度目の銃弾が飛来して、消滅する。これは緋炎の仕業なのか? あいつら、銃にまで手を出してるのか?
「ちょ、下ろして!」
オレの左腕の中で安豊寺が暴れた。黙っててくれないと抱えにくい。
「じっとしてろ」
「へ、変なとこ、さわらないでっ!」
言われて初めて気付いた。手のひらに当たる感触の柔らかさ。ヤベぇ、気持ちい……じゃなくて! オレは慌てて安豊寺を突き放した。
「オ、オレは、別に、さわるつもりはっ」
「ムッツリスケベ!」
「ち、違うっ」
「最低!」
「誤解だ!」
三度目。空気の裂ける音。展開したままの障壁《ガード》に、手応え。
バシッ!
安豊寺が息を呑む。師央が震える声を絞り出す。
「銃声、聞こえないのに」
「サイレンサー付きの遠距離ライフルだろうな。狙われたのがオレじゃなきゃ、死んでる。でも、たぶん狙撃は終わりだ。直接攻撃の連中が来た」
オレが言い終わるより先に、マフラー音が聞こえ始めた。閑静な住宅地をバイクの集団が爆走してくる。
安豊寺が吐き捨てるように言った。
「暴走族って、騒々しい。あんな音させて、どこがカッコいいの?」
「同感だな。下手くそが改造すると、あんな音にしかならない。無駄に重くなって、走行の性能も落ちる」
思わず本音を口にした。安豊寺は無視。おい、この嫌われ方は、さすがに不本意だぞ。
住宅地を巡る坂道の下のほうから、ヘッドライトが現れた。五台、か。突っ込んでこられたら厄介だが。
「おまえら、下がってろ」
言いながら、師央と安豊寺を追いやる。どこかの邸宅を囲う塀に背中を預ける形だ。
あっという間に、五台のバイクに囲まれた。五台とも全部、真っ赤に塗りたくられたハーレー。ボディに緋炎のロゴがスプレーされている。
いかつい体格の男が五人、ハーレーを降りた。メットを脱いだやつが一人いる。顔を知ってる。幹部だ。
「よぉ、銀髪。昨日はうちの下っ端どもが世話になったな。あんなレベルじゃ退屈だっただろ? ってことで、骨のあるのを連れて来たぜ」
無駄に律儀な男だ。報復しに来たんだろう? バイクで突っ込んでくれば話は早いのに、わざわざ挨拶付きの決闘とは。
「どけ、邪魔だ」
「邪魔だってんなら、どかしてみな?」
「痛い目を見るぜ」
「そりゃこっちのセリフだ」
「忠告するが、銃はやめとけ。足が付きやすい」
「何言ってやがんだ、あぁ? ダラダラおしゃべりしてる時間はねぇんだよ。やれ」
幹部が顎をしゃくった。三人の男が飛びかかってきた。遅い。そして、バラバラだ。
一人目のナイフをかいくぐって、そのみぞおちに肘を叩き込む。体勢を沈めた流れに乗せて、回し蹴り。二人目の脚を払う。三人目の拳の軌道を上腕でそらす。前のめりの敵の体に、膝をぶち込む。ダメージの浅い二人目の腰を踏む。
これで三人とも、しばらく起き上がれない。あと二人。
前進して、幹部との距離を詰める。跳躍。かかとを頭上に落とす。ヒットする直前、勢いを殺した。でなきゃ、こいつの命がない。幹部は声もなく沈んだ。あと一人。
振り返って、舌打ちする。刃渡りの長いナイフが光っていた。安豊寺を狙っている。オレは飛び込んだ。角度が悪い。敵へのカウンターは望めない。ナイフの正面に、左腕を差し出した。
焼け付く痛みが上腕に走った。体勢を崩しながらも、敵を突き飛ばす。
「煥先輩!」
背中の後ろで安豊寺が叫んだ。敵が視線を動かした。オレから、師央へと。
「危ねぇっ!」
敵がナイフを振りかざして、師央に突っ込む。師央は右手を突き出して、目を見開いて立ち尽くしている。
瞬間、オレは目を疑った。師央の手のひらの正面、何もない空間に、光が集まる。
敵が師央に襲い掛かった。その瞬間、障壁《ガード》を形作る光がクッキリと見えた。敵が弾き飛ばされながら悲鳴をあげる。ヘルメットが煙を上げて焼け焦げた。異臭が混じる。たぶん、髪が焼けた匂いだ。
師央が、へたり込みそうになった。オレは駆け寄って、その腕をつかんだ。
「おまえ、今、何をした!?」
「障壁《ガード》を、出しました」
「オレの能力を、どうして?」
「見よう見まね、です」
オレは唇を噛んだ。師央には謎が多すぎる。考えがまとまらない。考えても仕方がない。今は、現実だけを見るほうがいい。
「まずはここを離れる。走れ。とりあえず、安豊寺の家を目指す」
危険を感じたら、進路を変えればいい。勘だが、今日の襲撃はこいつらだけだと思う。
そもそも、良識ある住宅地で仕掛けること自体、失策だ。今ごろ、誰かが通報してるだろう。伸びてるこいつらは、警察に回収される。
オレは、自分と安豊寺のカバンを拾った。安豊寺の足に合わせて、坂を駆け上がる。
傷の痛みが拍動している。でも、たいした深さの傷じゃない。このくらいなら、すぐにふさがる。