「ダイヤル式です。集金の担当になったら、暗証番号を変えるのが最初の仕事です。だから今の暗証番号を知っている人は私以外にいません。いや、保険として部課長とは共有しているんですけど」
「だったら余計に、そのふたりが犯人ってのは考えづらいよね」
「そうなんですよ」
 疑いの目が向くに決まっている。
 私は「それがですよ」と身を乗り出し、今朝の驚きのエピソード、すなわちデスクにメモが置いてあり、金庫に集金袋が戻っていたという顛末を語った。
 話し終わったところに、ちょうど料理が運ばれてくる。私はミートソースドリア、蔵寄さんは爽やかにクラブハウスサンドだ。
「第二総務部が取り返してくれたってこと?」
「それしか考えられないです。だけど考えてみてください。私が伝言板にメッセージを書いたのが昨日の定時後、集金袋が戻ってたのが今朝ですよ? 電光石火ですよ。すごい探偵能力だと思いません?」
「可能性のひとつとして聞くだけだから、気を悪くしないでほしいんだけど、集金袋がなくなったっていうのがそもそも思い違いだった可能性は?」
「万にひとつもないですが、あったとしても、じゃあ第二総務部はどうやって私の困りごとを知ったのかっていう疑問は残ります」
「おっしゃるとおり」
 蔵寄さんはうなずき、サンドイッチにかぶりつく。私はジャケットのポケットからメモ用紙を取り出した。
「これが、置いてあったメモです」
「購買部経由で買えるメモ用紙だ。社内で一番多く使われてるサイズだね」
 察しのいい蔵寄さんの回答に、私はにやりとした。そう、足がつかないよう第二総務部は用心している。
「正体を知られたくないんですよ。すなわち、第二総務部は実在するってことです」
「つまり?」
「わくわくしませんか? この字を見てください。手書きですよ。だれかがペンを手に持ち、このメモを書いたんですよ!」
「テンション高いなあ」
 くすくす笑われ、はっと我に返った。
 よく考えたら、蔵寄さんを前に、もっとすべき話があるんじゃないのか。趣味とか、なにかこう、女子力のアピールにつながるなにかとか。そんなものないけど。
 私はおろそかになっていた食事に意識を戻し、熱々のドリアをせっせと口に運ぶ。
「あの、つまらないですか、この話」
「いや、とても興味深いよ。第二総務部がというより、生駒さんの興奮っぷりが」