ふと気づくと、柊木さんが私のほうに左手を差し出していた。眼鏡の奥の黒い瞳が、じっとこちらを見ている。
「え?」
「発注書と納品書」
「あっ、ああ、そうでした」
なにをしに来たんだ。私は持っていたクリアファイルを渡した。経理課で見つけた伝票と、添付されていた発注書、納品書をコピーしたものが入っている。
すぐさま柊木さんが中身を取り出した。
「あの、でも……」
「うん?」
私は机の上のファイルを見下ろした。
「支払われてる額は、この予算とだいたい同じです。べつに減ってなくて……」
「それは経理システムで見ればわかるし、見たいのはそこじゃない」
「え?」
柊木さんが、書類を机の上に並べる。発注に対して納品が行われるわけなので、発注書と納品書の内容は基本セットになっていないとおかしい。
そしてそのふたつは、ちゃんとセットになっていた。金額も同じ。摘要欄にも同じく『食事提供費一式』と記載があり、うちの最終営業日である四月二十八日の日付と金額が入っている。これだけ見たら、整った書類だ。
だけどふたりはじっとそれを見下ろし、うなずきあった。
「においますね」
「ああ」
全然わからない。私は「あの」と小さく挙手をした。
「どのへんが、どうにおうのか、聞いてもいいですか」
腕組みをした柊木さんが、佐行さんにアイコンタクトを送る。佐行さんはすぐに教え役を担ってくれた。
「摘要欄の内容がね、ぼやけすぎてるんだよね」
「なにかを隠してると?」
「じゃないかなーって。これまでも、ほんとなら認められない費用を、ほかの費用にまぜて計上した伝票をいくつか見てきたけど、まさにこういう書きかたになりがちなんだよね。まるきり嘘でも怪しまれるから、適度にふわっとさせるわけ」
「これ、明細はついてなかったんだな?」
「伝票には……ついてませんでした」
私の答えに、柊木さんが眉根を寄せ、佐行さんに話しかける。
「担当者を叩くか」
「どの担当者を叩くかですね。伝票作成者はこの名前、派遣さんですよ。なにも知らない可能性があります。承認印は……人事部長か。いきなりは叩きづらいな」
「……あの!」
意を決して、今度はしっかりと挙手をした。思わずといった感じに、佐行さんが「どうぞ、生駒さん」と指名してくれる。
「え?」
「発注書と納品書」
「あっ、ああ、そうでした」
なにをしに来たんだ。私は持っていたクリアファイルを渡した。経理課で見つけた伝票と、添付されていた発注書、納品書をコピーしたものが入っている。
すぐさま柊木さんが中身を取り出した。
「あの、でも……」
「うん?」
私は机の上のファイルを見下ろした。
「支払われてる額は、この予算とだいたい同じです。べつに減ってなくて……」
「それは経理システムで見ればわかるし、見たいのはそこじゃない」
「え?」
柊木さんが、書類を机の上に並べる。発注に対して納品が行われるわけなので、発注書と納品書の内容は基本セットになっていないとおかしい。
そしてそのふたつは、ちゃんとセットになっていた。金額も同じ。摘要欄にも同じく『食事提供費一式』と記載があり、うちの最終営業日である四月二十八日の日付と金額が入っている。これだけ見たら、整った書類だ。
だけどふたりはじっとそれを見下ろし、うなずきあった。
「においますね」
「ああ」
全然わからない。私は「あの」と小さく挙手をした。
「どのへんが、どうにおうのか、聞いてもいいですか」
腕組みをした柊木さんが、佐行さんにアイコンタクトを送る。佐行さんはすぐに教え役を担ってくれた。
「摘要欄の内容がね、ぼやけすぎてるんだよね」
「なにかを隠してると?」
「じゃないかなーって。これまでも、ほんとなら認められない費用を、ほかの費用にまぜて計上した伝票をいくつか見てきたけど、まさにこういう書きかたになりがちなんだよね。まるきり嘘でも怪しまれるから、適度にふわっとさせるわけ」
「これ、明細はついてなかったんだな?」
「伝票には……ついてませんでした」
私の答えに、柊木さんが眉根を寄せ、佐行さんに話しかける。
「担当者を叩くか」
「どの担当者を叩くかですね。伝票作成者はこの名前、派遣さんですよ。なにも知らない可能性があります。承認印は……人事部長か。いきなりは叩きづらいな」
「……あの!」
意を決して、今度はしっかりと挙手をした。思わずといった感じに、佐行さんが「どうぞ、生駒さん」と指名してくれる。