青白い蛍光灯の下、青緑に灰色を混ぜたような、事務的な色に塗られた鉄のドアが並んでいる。そのうちのひとつを柊木さんが開けた。
「おっ、生駒ちゃんだ。いらっしゃいませー」
明るい声で迎えてくれたのは、佐行さんだった。
そこはどう見ても、小さな倉庫だった。三方の壁は、床から天井まであるスチールラックで埋まっている。ラックには会社指定の仕分け用段ボールがいくつか置かれているけれど、見た感じかなりの年代物だ。
目を細めて、マジックで書いてある保管日付を見る。私が生まれる十年前だ。
部屋の中央には会議机がふたつくっつけられていた。見たことのないタイプの会議机だ。これもたぶん、もう社内では使われていないくらい昔のものなんだろう。
机の周囲にはパイプ椅子がある。佐行さんはそれには座らず、立ったまま机の上のバカでかいファイルに手を置いている。室内には彼だけだ。
戸口に佇んでいた私を、柊木さんが振り返った。
「どうぞ」
まるで客人を迎え入れる主人みたいに、かしこまったしぐさで私を中へと促す。
室内に一歩入ると、靴の下でじゃりっと音がした。定期清掃も入らないんだろう。
ズシンと背後でドアが閉まった。
明るさは足りているものの、照明の光の質が古いせいで、妙に明暗がくっきりして見える。時代も空間も飛び越え、まったく別のどこかへ来たような錯覚に襲われ、くらっとした。
「ここが第二総務部のアジトなんですか?」
「アジト!」
佐行さんが笑った。
「常駐してる場所かっていう意味なら、残念だけど違うよ。ここはまあ、僕らの会議室みたいな部屋かなー」
「人事部の予算表は?」
柊木さんはまっすぐ机に向かっていった。「ここに」と佐行さんがファイルを開く。
「過去五年間、食堂に関する福利厚生費の予算額に変化はありません。五年前の変更も、改築で本社の従業員数が大幅に減ったことに合わせ、額を調整しただけです。月額三千五百円×従業員数。実績は多少の変動がありますが、予算は同じです」
「うん」
A3サイズの用紙が折らずにファイリングされている分厚いファイルを、柊木さんがぱらりとめくる。
どうして彼らが人事部の予算表を持っているんだろう。他部署の予算は見られない。全社の予算を見られるのは、集約部署である経営企画部くらいのはずだ。
「おっ、生駒ちゃんだ。いらっしゃいませー」
明るい声で迎えてくれたのは、佐行さんだった。
そこはどう見ても、小さな倉庫だった。三方の壁は、床から天井まであるスチールラックで埋まっている。ラックには会社指定の仕分け用段ボールがいくつか置かれているけれど、見た感じかなりの年代物だ。
目を細めて、マジックで書いてある保管日付を見る。私が生まれる十年前だ。
部屋の中央には会議机がふたつくっつけられていた。見たことのないタイプの会議机だ。これもたぶん、もう社内では使われていないくらい昔のものなんだろう。
机の周囲にはパイプ椅子がある。佐行さんはそれには座らず、立ったまま机の上のバカでかいファイルに手を置いている。室内には彼だけだ。
戸口に佇んでいた私を、柊木さんが振り返った。
「どうぞ」
まるで客人を迎え入れる主人みたいに、かしこまったしぐさで私を中へと促す。
室内に一歩入ると、靴の下でじゃりっと音がした。定期清掃も入らないんだろう。
ズシンと背後でドアが閉まった。
明るさは足りているものの、照明の光の質が古いせいで、妙に明暗がくっきりして見える。時代も空間も飛び越え、まったく別のどこかへ来たような錯覚に襲われ、くらっとした。
「ここが第二総務部のアジトなんですか?」
「アジト!」
佐行さんが笑った。
「常駐してる場所かっていう意味なら、残念だけど違うよ。ここはまあ、僕らの会議室みたいな部屋かなー」
「人事部の予算表は?」
柊木さんはまっすぐ机に向かっていった。「ここに」と佐行さんがファイルを開く。
「過去五年間、食堂に関する福利厚生費の予算額に変化はありません。五年前の変更も、改築で本社の従業員数が大幅に減ったことに合わせ、額を調整しただけです。月額三千五百円×従業員数。実績は多少の変動がありますが、予算は同じです」
「うん」
A3サイズの用紙が折らずにファイリングされている分厚いファイルを、柊木さんがぱらりとめくる。
どうして彼らが人事部の予算表を持っているんだろう。他部署の予算は見られない。全社の予算を見られるのは、集約部署である経営企画部くらいのはずだ。