となれば、しらみつぶしに見ていくしかない。私はしゃがみこむと一番端の箱の中身を三分の一ほどを取り出し、支払先にカクワフーズの名前がある伝票をさがした。
 量があるとはいえ、見る箇所が支払先のみなので、すべての伝票をチェックするのにそう時間はかからなかった。十五分もたたないうちに、私は最後の束を箱の中に戻していた。一応、順番もまったく変えずにすべて戻したはずだ。
 そして、カクワフーズ宛てのものはなかった。
 失意のうちに立ち上がると、腰がみしみしと痛み、めまいがする。集中しすぎた。
 ここにないということは、まだ提出されていないか、そもそもストック場所がここではないかだ。
 神業のような速さで電卓を打つ出納課の人たちを眺めた。
 人事部から伝票の提出はありましたか。福利厚生費の伝票はどこにありますか。
 そんなことを聞いたら目立ちすぎだ。私が宣伝課の人間であることは知られているし、他部署の伝票なんて普通は用がない。
 無理なお願いをできるほど親しくもない。むしろ毎度期限ぎりぎりに大量の伝票を持ちこむ宣伝課は、にらまれている存在だ。
 見落とした可能性もあるから、もう一度だけ見てみるとして、締め日を過ぎてからまた来るか……。あと、それでも見つからなかったときの手も考えておかないと。
 とりあえず仕事に戻ろうと、キャビネットを閉めたときだった。
「あれえ、生駒ちゃんだー。お疲れさま」
 手を振っているのは、私と同じマーケティング・プロモーション部の宮野(みやの)さんという女性だ。市場商品グループのほうで庶務をしているベテランさんだ。
 小柄で色白で、服装もしぐさもふわふわっとしていてかわいらしい。
「お疲れさまです」
「伝票をさがしてるの?」
 市場商品グループは、開発部署とのやりとりが主な業務なので、外部への支払いはあまり発生しない。彼女も伝票提出に来た様子だけれど、持っている伝票は何枚かだ。
「そうなんです。でもここになくて」
「早い時期に提出してたら、もう経理課行きの棚にあるかも。あそこ」
 宮野さんが指さしたのは、壁際にある棚だった。そこにもコピー用紙の空き箱を利用した書類ボックスが並んでいる。
「かほちゃーん、あっち、見せてもらっていいよね?」