「大好きです」
「あはは、柊木さんが予想したとおりだ」
「私について予想を!」
 身に余る光栄だ。彼らに囲まれているというこの状況だけでも非現実感がすごいのに、さらなるごほうびだ。
 舞い上がる私をよそに、柊木さんは「ごちそうさまでした」と静かに手を合わせる。隣からも「ごちそうさまでした」と聞こえ、私はぎょっとした。
 阿形さんの前のどんぶりが、どちらも空になっている。
「いやいや、柊木さんはともかく、どんな速さだよ、阿形」
「ちんたらおしゃべりしてるからだ。手伝ってやる」
「あ、こら」
 阿形さんが佐行さんのお味噌汁のお椀に手を伸ばし、勝手にぐいとあおる。それからちょっと考えこみ、眉をひそめた。
「なにこれ」
「だから言ってるじゃん、最近妙なんだって。ラーメンは違和感なかった?」
「俺の舌じゃ、ささいな違いなんてわからないよ。でもこの味噌汁はひどい」
 柊木さんたちを待たせないよう、私は急いで定食の残りを食べきった。佐行さんも同時に食事を終える。というより彼は、私に合わせてくれていたに違いない。
「ごちそうさまでした!」
 私がお箸を置くやいなや、柊木さんが立ち上がった。ほかのふたりも続いて席を立ち、トレイを持つ。慌てて私も続いた。
 ゆっくりお茶を飲むひまなんてない。なぜならこの席があくのを待っている従業員が、まだ入口に並んでいるからだ。
 食器の返却コーナーへ向かう途中、周囲からまたもやお味噌汁の味にかんする話が聞こえてきた。ハンバーグもつなぎだらけだったと嘆いている。どうやら食堂ユーザーの間では、最近ホットな話題らしい。
 私はふと柊木さんに尋ねた。
「みなさんは、こういう困りごとの解決には乗りださないんですか?」
「こういう困りごと、とは?」
「食堂の味の劣化です。これ、従業員にとってはダメージ大きいと思うんですよ」
「毎日のことだしねー」
 うんうん佐行さんがうなずく。けれど柊木さんは冷静だ。
「福利厚生の質を上げるのは、人事部厚生課の仕事だ。食堂に不満があるなら、担当者に意見すればいい」
 そういうものかあ。
 またあの目の覚めるような解決劇を見てみたかったのだけれど、まあたしかに、社内にちゃんと担当部署がある以上は、そこが動けばいい話だ。