不躾なほどの視線を柊木さんの手元に注ぐ私に、男性が声をかけた。
「すごい観察してるなー。よかったら一緒に食べます?」
「えっ、いいんですか」
じつのところ、そう言ってもらえるのを待っていた。柊木さんはともかく、彼ならたとえ社交辞令でも誘ってくれそうな気がしたからだ。
柊木さんはどんな反応なんだろうと思い、顔をのぞきこんでみる。とくにこれといった表情は浮かんでいなかった。「ね、いいですよね!」という男性の言葉に、「うん」と答えただけ。
いやがられている印象はなかったので、私は男性のお言葉に甘えることにした。
テレビからは相変わらず、昼のニュースが大音量で流れている。厨房からは早くもあと片づけの物音が響きはじめ、ニュースキャスターの声に負けまいとしているかのように、金属のぶつかる音と水流の音がほとばしる。
ようするにたいそう騒がしい。
それなりの席数がある食堂は、ひっきりなしに席があいたり埋まったりしている。男性と柊木さんは奥まった場所に席を取り、私を呼んだ。
六人掛けのテーブルの片側に柊木さんと男性、男性の向かいに私。男性は「いただきます」と元気に言い、お箸を手に取った。
柊木さんより背が高いのが座っていてもわかる。ひょろっと細身で、ずっとにこにこしているように見えるけれど、おそらくもともとそういう顔立ちなんだろう。
少しくるくるした、明るめの色の髪。彼が私に笑いかけた。
「僕、さぎょうっていいます。よろしく」
「さぎょうさん、ですか」
「佐藤の佐に〝行く〟で佐行」
柊木さんがお椀片手に、お箸を持った左手で空中に字を書いてくれる。
なるほど、佐行さんか。
そしてなぜ先輩らしき柊木さんのほうが、出入りしづらい壁際の席を選んだのかわかった。左利きだからだ。お箸を使う腕がぶつからないよう、左側に座ったのだ。
「柊木さん、そこは俺的に〝佐々成正の佐〟ですからー!」
「ああそう」
佐行さんのイントネーションには、どことなく関西の香りがする。陽気な人だから大阪かな、と想像するくらいには私の西日本にかんする知識は貧しい。
キャッキャしている佐行さんとつれない柊木さんを眺めていたら、手が止まっていたらしい。柊木さんが私に静かな視線をよこした。
「食べたら?」
「あっ、はい。すみません」
「すごい観察してるなー。よかったら一緒に食べます?」
「えっ、いいんですか」
じつのところ、そう言ってもらえるのを待っていた。柊木さんはともかく、彼ならたとえ社交辞令でも誘ってくれそうな気がしたからだ。
柊木さんはどんな反応なんだろうと思い、顔をのぞきこんでみる。とくにこれといった表情は浮かんでいなかった。「ね、いいですよね!」という男性の言葉に、「うん」と答えただけ。
いやがられている印象はなかったので、私は男性のお言葉に甘えることにした。
テレビからは相変わらず、昼のニュースが大音量で流れている。厨房からは早くもあと片づけの物音が響きはじめ、ニュースキャスターの声に負けまいとしているかのように、金属のぶつかる音と水流の音がほとばしる。
ようするにたいそう騒がしい。
それなりの席数がある食堂は、ひっきりなしに席があいたり埋まったりしている。男性と柊木さんは奥まった場所に席を取り、私を呼んだ。
六人掛けのテーブルの片側に柊木さんと男性、男性の向かいに私。男性は「いただきます」と元気に言い、お箸を手に取った。
柊木さんより背が高いのが座っていてもわかる。ひょろっと細身で、ずっとにこにこしているように見えるけれど、おそらくもともとそういう顔立ちなんだろう。
少しくるくるした、明るめの色の髪。彼が私に笑いかけた。
「僕、さぎょうっていいます。よろしく」
「さぎょうさん、ですか」
「佐藤の佐に〝行く〟で佐行」
柊木さんがお椀片手に、お箸を持った左手で空中に字を書いてくれる。
なるほど、佐行さんか。
そしてなぜ先輩らしき柊木さんのほうが、出入りしづらい壁際の席を選んだのかわかった。左利きだからだ。お箸を使う腕がぶつからないよう、左側に座ったのだ。
「柊木さん、そこは俺的に〝佐々成正の佐〟ですからー!」
「ああそう」
佐行さんのイントネーションには、どことなく関西の香りがする。陽気な人だから大阪かな、と想像するくらいには私の西日本にかんする知識は貧しい。
キャッキャしている佐行さんとつれない柊木さんを眺めていたら、手が止まっていたらしい。柊木さんが私に静かな視線をよこした。
「食べたら?」
「あっ、はい。すみません」