安堵で腰が抜けそうになる。へなへなとその場にしゃがみ、集金袋を胸に抱いた。
 その瞬間、大きな疑問が私を襲った。
 集金袋が戻ってきた経緯も気になる。だれが金庫を開けられたのかというのも謎だ。
だけど、それ以上に不可思議なことがある。
 あの伝言板を使ったのは、もちろんこの集金袋を見つけてほしかったからだ。
 最後に集金袋を出したのは昨日の朝、部内のひとりから受け取った親睦会費を入れたときだ。金庫に戻した記憶もちゃんとある。そして、なくなったことに気づいたのが昼過ぎ。
 午後じゅう心当たりの場所をさがしたけれどなかった。部員にもそれとなく確認した。それでも行方は杳として知れず、翌日もう一度さがして見つからなかったら、なくしたと正直に部内に申し出ようと決めた。
 だけどその前に、最後の希望にすがってみたかったのだ。それがあの伝言板だ。
 しかしながら。
 私は『集金袋を見つけてほしい』と伝言板に書いたわけじゃない。
「なのに、なんで……?」
 思わずひとりごとが漏れた。
 なぜ”第二総務部”は知っていたんだろう。
 私がなにを依頼しようとしていたのか。
「これは……すごいぞ」
 キャビネットの前でうなっていたら、いつの間にかみんなが出社してくる時刻になっていて、「お腹でも痛いの?」と心配された。
 これが私と第二総務部の出会いだ。

「第、二……総務部……ないよねえ……」
 内線表を順にたどっていく。管理本部の中に”総務部”はあるものの、第二総務部という部署は、やっぱり記載されていない。
 集金袋が見つかった日の午前中、私は業務の合間をぬって、組織図やら内線表やらを確認していた。
「うん、ない」
 あきらめて内線表のファイルを閉じたとき、PCのアラームが打ちあわせの五分前を知らせてきた。私はファイルをスタンドに戻し、必要な資料をそろえた。
 ここ『天名(あまな)インダストリーズ』は、乗用車や商用車を製造しているメーカーだ。その昔はバスや電車の車両、戦前、戦時中は航空機まで製造していた。
 宣伝課の二年目社員である私は、SPツール、つまり販売促進のための物件の制作を担当している。お客さまに送るダイレクトメールやキャンペーンの告知チラシ、店舗内で使うポップ、プレゼントキャンペーンの賞品まで、制作する範囲は広い。