「ご担当の変更、ですか?」
 翌日やってきたティー・ティーの新しい営業員さんが、「そうなんです」と申し訳なさそうに笑顔をつくる。
「急なことで申し訳ありません。ご迷惑おかけしないようがんばりますので!」
 私はフロアの入口で、もらった名刺を見つめた。
 前の担当者さんと同じくらいの年齢で、同じく男性。背格好や雰囲気も似ている。まるで会社の規定で、営業員の見た目の型でも決まっているのかと思うくらいだ。
 うちに来て引継ぎをしていた様子もなかったので、案内したほうがいいかなと思い、中に入ってもらった。
 デスクのあるエリアとフロアの出入口の間はキャビネットで仕切られていて、そのスペースは取引先の人も入れる。
 奥の一角に、マケプロ専用の給湯スペースがある。通常、来客があったときは九階の食堂でコーヒーや紅茶をいれてもらうのだけれど、宣伝課は特に来客が多いため、自分たちで対応できる設備を持っているのだ。
「こちらです。下の戸棚がストック置場になっていて、ここもチェックしていただいてました」
「承知しました。ご請求はまとめて月末でよろしいですか?」
「はい。お願いします。あと新商品が出たら、よく試しに買わせていただいているので、ぜひパンフレットをください」
「ありがたいです!」
 あれこれメモしながら熱心にチェックしている。私は「お帰りになるときは、お声がけ不要ですから」と念のため伝え、自分の席に戻った。
 その日は打ちあわせざんまいだった。
 ようやく六月の『お客さま感謝デー』の準備が終わったと思ったら、もう七月の展示会に向けた制作が佳境。八月には新車発表を控えているし、休む間もない。
 SPツールを制作しているのは、うちの商品カタログなどもつくっている制作会社さんだ。いくつかのチームに分かれて案件を分担している。
 発注側の担当は私ひとりのため、複数のチームと常に途切れず、なにかしら案件を進めている状態なのだ。
 午後も遅くなってようやく一段落し、自席に戻ると、デスクの上にメモがあった。
【15:20 受付にティー・ティーさん。お時間があくまでお待ちしますとのこと】
「ティー・ティーさんが?」
 メモを手に、思わずひとりごちた。