『澤口選手を使って剣崎社長に赤っ恥をかかせつつ、社内での自分の存在感を高めようってところですかね。製作所の人間にとって、東京の本社の椅子に座っている社長は遠い存在です。小者のやりくちですが、バカにできませんよ』
「わかった。よくやった、ありがとう」
『会合に使われる料理屋を突き止めたんで、奴らの弱みになりそうな写真でも狙ってから帰ります。撮れたらですが』
私は気がゆるみ、「阿形さんのほうがパパラッチみたいですね」と口走った。とたんに携帯から『聞こえてるからな、回文!』と怒声が響く。
「すみません、すみません……お疲れさまです……」
平謝りしたときには、通話は終わっていた。私はあせった。
「わ、すみません、お話はちゃんと終わってましたか?」
「心配ない。しかし蔵寄が、そこまでアマフレと懇意だったとはな」
「お前まで、やめろ!」
ばしんと背中を叩かれ、「いて」と柊木さんがうめく。
「あの……、〝反剣崎派〟って、なんですか?」
「ああ、生駒さんは知らないか」
蔵寄さんはデスクに腰かけたまま脚を組んだ。半端な人がやったら足が床から浮いてしまうポーズだろう。
「今の社長が社長になるとき、取締役会が割れたんだよ。代々天名の社長は開発出身の技術者がなってた。剣崎さんは営業畑の人だから」
「会社の上層部も、二派に分かれたんだ。からくも剣崎さんが勝ったが、いまだに社内には敵が多い。次こそ社長も幹部も開発出身者で固めようという動きがある」
「知りませんでした……」
「争いも下火になったからね。水面下に移ったって言うべきか」
「前は水面より上だったんですか?」
「一時期はひどかったよ。一次承認者が営業出身の役員だとするじゃない? 二次承認者が開発出身者だと、その議案はいつまでたっても通らないみたいな」
「バカみたい!」と本音が口をついて出る。「だよねー」と蔵寄さんが苦笑した。
「でも、そういう政治なしには、ここまで大きな会社は動かせないっていうのも、事実なんだろうね。……で、柊木、真栄さんからのお願いはどうするんだ」
忘れたかったのか、柊木さんがうつむき、はーっと憂鬱そうなため息をつく。
「なんで俺なんだよ……」
「ふたりから信頼されてるからだろ、お前しかいないよ」
「わかった。よくやった、ありがとう」
『会合に使われる料理屋を突き止めたんで、奴らの弱みになりそうな写真でも狙ってから帰ります。撮れたらですが』
私は気がゆるみ、「阿形さんのほうがパパラッチみたいですね」と口走った。とたんに携帯から『聞こえてるからな、回文!』と怒声が響く。
「すみません、すみません……お疲れさまです……」
平謝りしたときには、通話は終わっていた。私はあせった。
「わ、すみません、お話はちゃんと終わってましたか?」
「心配ない。しかし蔵寄が、そこまでアマフレと懇意だったとはな」
「お前まで、やめろ!」
ばしんと背中を叩かれ、「いて」と柊木さんがうめく。
「あの……、〝反剣崎派〟って、なんですか?」
「ああ、生駒さんは知らないか」
蔵寄さんはデスクに腰かけたまま脚を組んだ。半端な人がやったら足が床から浮いてしまうポーズだろう。
「今の社長が社長になるとき、取締役会が割れたんだよ。代々天名の社長は開発出身の技術者がなってた。剣崎さんは営業畑の人だから」
「会社の上層部も、二派に分かれたんだ。からくも剣崎さんが勝ったが、いまだに社内には敵が多い。次こそ社長も幹部も開発出身者で固めようという動きがある」
「知りませんでした……」
「争いも下火になったからね。水面下に移ったって言うべきか」
「前は水面より上だったんですか?」
「一時期はひどかったよ。一次承認者が営業出身の役員だとするじゃない? 二次承認者が開発出身者だと、その議案はいつまでたっても通らないみたいな」
「バカみたい!」と本音が口をついて出る。「だよねー」と蔵寄さんが苦笑した。
「でも、そういう政治なしには、ここまで大きな会社は動かせないっていうのも、事実なんだろうね。……で、柊木、真栄さんからのお願いはどうするんだ」
忘れたかったのか、柊木さんがうつむき、はーっと憂鬱そうなため息をつく。
「なんで俺なんだよ……」
「ふたりから信頼されてるからだろ、お前しかいないよ」