「でも、意味のない情報ですよ。第二総務部に『あなたは左利きですね』って突きつけて、『正解です』と言ってもらえたところで、得るものはないです。社内に左利きの男性なんて何人もいるだろうし……」
「男性だと思うんだ?」
「少なくともひとりは。私はこのメモは、電話をくれたあの男の人、本人が書いたものだと思うんです。なんとなくですけど」
 声の印象と文字の印象が、しっくりと重なる。読みやすく、くせがない。
 そして、これが男性の字であるということにはもう少し自信がある。
 文字をファッションとしてとらえ、はやりの筆跡を追ったりした経験をしていなそうな、習った字に本人のくせをプラスしただけという感じの文字。
「メモ帳に対する文字の収めかたも、どことなく無頓着というか……、ノートの切れ端とかレシートの裏とかにちまちま手紙を書いて交換したりしたことのなさそうな感じを受けるんですよね」
「おもしろい着眼点だなあ」
 称賛の言葉はうれしかったけれど、私は再び沈んだ気分になり、肩を落とした。
「こんなの一般論にすら至ってない、ただの持論です。私が知りたいのは、第二総務部の全体像なんです。メモを書いた人の特徴じゃない」
「第二総務部を、組織だと思ってるんだね?」
 メモ帳を名刺入れにしまいながら、はっとした。
 組織だと思っていた、もちろん。だって第二総務部なんて名前なんだし。
「組織じゃない可能性もある……?」
「いや、僕は知らないけど。でもそもそも、そんな名前の部署ないわけじゃない?」
「”第二総務部”が、組織じゃない……」
 呆然としてつぶやいた。
 当然のように、集団だと思っていた。どこかの部署の裏名義なんだろう、とか、もしくは部活みたいに有志が集まって結成した仕置き人集団なんだろう、とか。
 社内のだれかであることは疑う必要はないと思う。なぜなら依頼に使われるのが内線番号であり、私にかかってきた電話も内線だったからだ。
 組織じゃない。すなわち……個人?
「生駒さん、食べないと。伸びちゃうよ」
 蔵寄さんが隣からのぞきこんでくる。
 私は自動操縦のように麺をすすりながら、パズルのように頭の中に散らばっていたアイデアが、だんだんと形を成していくのを感じた。