経済新聞やビジネス雑誌に出ている姿を見ることのほうが、ずっと多い。
社長はもうひとり男性を従えていた。若い部長クラスといった感じの年齢に見える。つまり四十代なかばから後半。中肉中背で、お公家さまみたいなつるっとした品のある顔立ちだ。知らない顔だった。
社長は私たちのいるテーブルに目を向けると、「うまそうじゃないか」と口の端を上げた。私はピザを持ったままなことに気づいたものの、今さらどうにもできない。
三白眼ぎみの目が、ぎょろっと部屋の奥をにらみつけた。
「よう、久しぶりだな、柊木」
えっ。
その親しげな……というには威圧感がありすぎる挨拶に、私は驚いた。そして柊木さんの返事は、くだけているというよりは、もはやおざなりだった。
「ええ。ご無沙汰しています」
ラックに寄りかかった姿勢を正そうともせず、あろうことか口にものが入ったままだ。話しかけられたタイミングが悪かったといえば、そうなんだけれど。
私は他人事ながら身を硬くして、社長の反応を見守った。彼は、くっと喉を鳴らして笑っただけだった。
「相変わらずだな。ちゃんと貢献してるのか」
「定期報告は届いているはずですよ。八雲さんからもお聞きになっているでしょうに、俺になにを言わせたいんです」
ヤクモ! たびたび彼らの口から聞いた名前だ。
柊木さんがちらっと社長のうしろに目をやったことから察するに、あのお公家さまが〝ヤクモさん〟に違いない。社長の側近のような立場の人なんだろうか。
「ちやほやされて、すっかり天狗になった投手がお前たちを頼ったそうだな」
社長の挑発には乗らず、柊木さんは冷静に答える。
「非常に礼儀正しい好青年なら来ましたよ」
「間違っても、あれの味方なんぞしないだろうな?」
部屋の中の緊張感がすごい。なんでもなさそうに応対している柊木さんも、そのじつ、つけいる隙を見せないよう、かなり慎重に言葉を選んでいるのを感じる。
じっと社長を見つめていた柊木さんが、やがて口を開いた。
「俺たちの使命に、社長への忖度は含まれません。ご承知と思いますが」
「ほお……」
「従業員の幸福のためなら、できるかぎりのことをしますよ」
ふたりはしばしにらみあったあと、どちらからともなく目をそらした。社長はくるっときびすを返し、戸口のほうへ向かう。
ドアの手前でふと立ち止まり、「柊木」と振り返った。
社長はもうひとり男性を従えていた。若い部長クラスといった感じの年齢に見える。つまり四十代なかばから後半。中肉中背で、お公家さまみたいなつるっとした品のある顔立ちだ。知らない顔だった。
社長は私たちのいるテーブルに目を向けると、「うまそうじゃないか」と口の端を上げた。私はピザを持ったままなことに気づいたものの、今さらどうにもできない。
三白眼ぎみの目が、ぎょろっと部屋の奥をにらみつけた。
「よう、久しぶりだな、柊木」
えっ。
その親しげな……というには威圧感がありすぎる挨拶に、私は驚いた。そして柊木さんの返事は、くだけているというよりは、もはやおざなりだった。
「ええ。ご無沙汰しています」
ラックに寄りかかった姿勢を正そうともせず、あろうことか口にものが入ったままだ。話しかけられたタイミングが悪かったといえば、そうなんだけれど。
私は他人事ながら身を硬くして、社長の反応を見守った。彼は、くっと喉を鳴らして笑っただけだった。
「相変わらずだな。ちゃんと貢献してるのか」
「定期報告は届いているはずですよ。八雲さんからもお聞きになっているでしょうに、俺になにを言わせたいんです」
ヤクモ! たびたび彼らの口から聞いた名前だ。
柊木さんがちらっと社長のうしろに目をやったことから察するに、あのお公家さまが〝ヤクモさん〟に違いない。社長の側近のような立場の人なんだろうか。
「ちやほやされて、すっかり天狗になった投手がお前たちを頼ったそうだな」
社長の挑発には乗らず、柊木さんは冷静に答える。
「非常に礼儀正しい好青年なら来ましたよ」
「間違っても、あれの味方なんぞしないだろうな?」
部屋の中の緊張感がすごい。なんでもなさそうに応対している柊木さんも、そのじつ、つけいる隙を見せないよう、かなり慎重に言葉を選んでいるのを感じる。
じっと社長を見つめていた柊木さんが、やがて口を開いた。
「俺たちの使命に、社長への忖度は含まれません。ご承知と思いますが」
「ほお……」
「従業員の幸福のためなら、できるかぎりのことをしますよ」
ふたりはしばしにらみあったあと、どちらからともなく目をそらした。社長はくるっときびすを返し、戸口のほうへ向かう。
ドアの手前でふと立ち止まり、「柊木」と振り返った。