壮悟くんの自己満足は、あたしの唄と似ている。
 あたしは歌えるんです、という自信満々の自己満足で歌い始めた。聴いてほしくて、認められたくて、目立ちたくて、できる限りの大声を出して歌った。
 だから、リスナーさんの反響に驚いた。うまいねという単純な勝算だけじゃなかった。共感しましたという言葉があった。同じ気持ちになって同じ唄を口ずさんでくれる人がいる。そんな奇跡みたいな出会いに、あたしのほうこそ元気をもらえるんだと知った。
 壮悟くんは黙ってあたしをにらんでいた。その視線を正面から受け止めながら、あたしは、なつかしさに胸が痛んだ。額から鼻、目元や頬の印象が、本当に沖田さんだ。
 たぶん、誠狼異聞の沖田さんのCGは、壮悟くんの顔の3Dスキャンデータが、土台になっている。笑ったら、きっと、もっとそっくりになる。笑ってくれたらいいのに。
 壮悟くんは、根負けしたように目をそらした。
「自己満足なのに共感とか、さんざん悲劇書いてんのに感動とか、違う人間のくせに同じ思いとか、意味わかんないよ。言葉の原義から外れてる。なのに、確かに、そういうことってあるんだ」
「不思議ですよね。あたしも歌いながら、不思議になるんです」
「あんたと初めて会ったとき、ビックリした」
「え?」
「現実の、遠野優歌のほうと会ったとき。ミユメだって、すぐわかった。顔見て一瞬で気付いて、声聞いて、頭パニクりそうだった。しかも、なぜかテストプレイにも現れるし。そんな話、聞いてなかったって」
「あ、テスターの話は、本当に急に決まったから」
 壮悟くんは、チラッと一瞬だけ、あたしを見た。
「おれ、そんなにバトルうまくなくて、ミユメの曲、一つも持ってないけど、よく聴いてんだ。録画してあるやつばっかだけど、一回だけ、ストリーミング配信のライヴも行った」
 頬が熱くなってくる。
「そうだったんですか」
「あんたの唄、希少価値、高すぎ。ハイエストにしか置いてなくてさ。ムカつく」
「あ、えっと、ゴメンなさい」
「ムカつくんだよ。価値、認められてて。すげぇ認められてて。確かに実力もあって、存在を証明できてんだろ? 勝手にライバル視してたんだけど、本物を前にすると……バカだよな、おれ。ただのファンなんじゃんって気付いた」
 頭に血が上って真っ白になる。倒れそうだった。ドキドキする。
「ふ、ファンなんて、そんな……えっと」
 壮悟くんがあたしをにらんだ。真っ赤だ。
「あんたこそ言ったじゃん。おれのシナリオ、す、好きとかっ」
「でっ、でもっ、だって……!」
「プレイ中も沖田にくっついたり、いい雰囲気になったり。やめろよな。いちゃつく相手が斎藤なら、まだ耐えられた。でも、沖田が相手って、ちょっとさぁ」
 プレイ動画、モニタで観ていたんだっけ? じゃあ、沖田さんにドキドキしてたこと、筒抜け? 恥ずかしすぎる。そんなの見ないでほしかった。というか、そもそも、壮悟くんが書いたシナリオのせいでしょう?
「…………っ!」
 文句を言いたいのに声が出ない。口をパクパクするだけ。熱すぎる頬を覆って、あたしは下を向いた。