アタシたちは沖田さんを連れて、千駄ヶ谷《せんだがや》の屋敷へ戻った。
 沖田さんは眠るばかりだった。寝息にときどき寝言が交じる。その額に触れると、沖田さんが見る夢を共有できた。
 幼い日、両親を亡くした沖田さんは、年の離れた姉とその夫の手で育てられていた。姉夫婦を守りたくて剣術を始め、試衛館で近藤さんに出会った。
 九つのころから試衛館で過ごすようになり、仲間たちと出会った。沖田さんは誰よりも才能に恵まれていた。でも、子どもの体ではなかなか勝てず、悔しくて、誰よりも練習した。
 めきめきと腕を上げた沖田さんは、まだ少年と呼べる年のうちから、出張指導も担当するようになった。厳しすぎる、生意気だ、と評判は悪かったけれど。
 試衛館は、道場破りに押し込まれることもあった。そんなときは沖田さんの出番だ。屈強な大人が相手でも恐怖しないし、逆に敵がひるんだとしても、まったく容赦しなかった。
 求心力を持つ道場長、近藤さん。色恋と剣術、二枚看板の土方さん。最年長で面倒見のいい源さん。刀を持つ読書人、山南さん。年上の仲間たちに見守られていた。
 やんちゃで人なつっこい藤堂さん。左利きで、冷静で繊細な斎藤さん。同い年の仲間と剣を交えて、競い合った。
 貧乏暮らしも楽しかった。畑仕事に野良仕事、子どもたちの世話。くたくたになるまで、毎日、駆け回っていた。
 皆、同じ夢を見て、語り合った。
 いつか近い将来、刀で身を立てることができるなら。不安定な政情と外国の接近に揺れるこの国で、誰かを守ることができるなら。
 命を懸けてまっすぐに、誠心誠意、戦い抜こう。それこそが、この動乱の時代に我らが生まれた理由だ。
 沖田さんの見る夢の中では、みんな笑っていた。みんな楽しそうだった。みんな生き生きとして輝いていた。
 二度と戻らない日々。戦のために奪われた短い平穏。彼らがまだ人斬りではなかった時代。美しい夢を、沖田さんは見ていた。
 そして、思い出の夢が尽きるころ。慶応四年の夏の一日、沖田さんは息を引き取った。享年は、数え年で二十五。
 透き通りそうなくらい静かに眠ったまま、仲間たちから遠く離れた場所で、沖田さんはこの世に別れを告げた。
 庭の桜は青々とした葉を茂らせて、夏の太陽の下にきらめいている。縁側に咲いた真っ白な朝顔が、そっと眠りに就くように、淡い花びらをたたんだ。
 せみの声が聞こえる。銅の風鈴が、ちりりと鳴った。