「スキルの威力が高すぎますね。沖田総司の攻撃力、削りましょうか」
 あたしの提案に、ニコルさんも乗った。
「素早さも削ろうか。束縛魔法を試そう」
 ニコルさんは、途中だった魔法の詠唱を中断。代わりに、束縛魔法を唱える。手にした杖の先端で、緑色の珠がきらめいた。手首に巻かれた、いばらのブレスレットが、ひゅんと一振りでムチに変ずる。
“魔茨鞭撃―マシベンゲキ―”
 沖田総司は跳んで、簡単にかわした。それもニコルさんの計算のうち。もう一つ、束縛系のスキルが発動する。
“翠綿縛花―スイメンバクカ―”
 杖の先端の珠から緑色の光が湧き出した。光が、沖田総司の着地点をとらえる。
「……ああ、ダメだ。完全じゃない」
 光は沖田総司の右足にまとわりついた。でも、体の動きを封じられる前に、沖田総司は魔方陣から跳び離れた。反則レベルの素早さだ。魔法耐性がないのを、物理的なアクションでカバーするなんて。
 ニコルさんはムチを振るって、沖田総司を追い続ける。沖田総司は走る、跳ぶ、また走る。
 逃げ回る異形の剣士の前に、ラフ先生が立ちはだかった。
「ちょこまかすんな!」
 鋭いモーションで、かかと落とし。
“bugging”
 ヒット判定。初めて、まともにダメージが入った。沖田総司の足取りが乱れる。
 その隙に左右から、シャリンさんと斎藤さんが突っ込む。わずかにタイミングをずらした波状攻撃。
“Wild Iris”
“剋爪―コクソウ―”
 沖田総司の着物が裂ける。手刀が火花を散らす。小ダメージの蓄積。沖田総司の体勢が崩れかける。逃げ回る足が完全に止まった。
 このタイミングを待っていた。あたしは、詠唱済みの魔法のポーズを解除する。
“水檻―アクアケージ―”
 噴き上がる水の檻に沖田総司が触れた。完全にとらえることはできない。逃げられた。だけど、触れただけでも十分。
“氷結―フリージング―”
 濡れた箇所だけ確実に凍らせる、条件付き魔法だ。沖田総司の素早さがダウンする。運よく凍傷も負わせたから、攻撃力も削った。
 斎藤さんが何かを言いかけた。セリフを、誰かがスキップした。
「メロドラマは聞きたくねぇっての」
 朝綺先生の声がスピーカから洩れる。あたしも同じことを思っていた。
 バトルは作業だ。ウィンドウに降る矢印を叩きつぶす精密作業。速さと正確さを競い合うように、プレイヤたちはスキルを次々と炸裂させる。
 あたしの魔法が口火を切る。
“凍柱―アイシクルコラム―”
 氷の柱をいくつも突き立てて、沖田総司に縦横無尽な動きを許さない。着実に逃げ場を奪う。軌道を読んで、攻撃陣がワナを張る。
 手数の多いシャリンさん、破壊力の高いラフ先生、変速的な搦《から》め手のニコルさん。
 斎藤さんのAIはセミオートで、シャリンさんと連動させている。シャリンさんの素早さで翻弄して、すかさず斎藤さんが追撃する。そこをさらに、ラフ先生やニコルさんがたたみかける。
 こっちも無傷ではない。防御を考えない沖田総司の攻撃は、破壊力が半端じゃない。
“双烈薨―ソウレツコウ―”
 斬り下ろして斬り上げる二連撃がラフ先生を襲った。ヒット判定。直後、ニコルさんの回復魔法が発動する。ラフ先生の傷がふさがる。
「勝てますね」
 当然のことをつぶやいてみる。このレベルのプレイヤが寄ってたかって、一体のボスを相手取る。勝てないはずがない。
 突然。
 ぐにゃり、とCGが歪む。力場が揺らいだ。沖田総司のチカラが持続されなくなってきている。
 シャリンさんが剣を振るいながらつぶやいた。
「このまま押し切ればいいのよね? 形態変化なんて面倒なこと、しないでしょうね」
 ニコルさんが植物の種を飛ばす。沖田総司の肩口にヒットした。メリメリと、植物が急激に成長する。宿り木の種だ。
「索敵した感じだと、単一形態だよ。目に見えてるゲージを空っぽにしてやれば、おしまい」
 寄生する宿り木が沖田総司のヒットポイントを吸い取る。絡み付く蔓《つる》が動きを封じる。
 沖田総司が吠えた。苦しんで、いらだっている。