アタシとラフ先生は甲州へ向かった。山がちの甲州からは、富士山が間近に見える。
 甲府城の一帯は、すでに新政府軍によって占拠されていた。アタシたちは隠れながら情報を集めて、甲陽鎮撫隊の消息を探った。
 結局のところ。
「甲陽鎮撫隊は間に合わなかったんですね。甲州へ入ったときにはもう、新政府軍が先に甲府城を押さえていた。その状況で、後ろ盾もなく戦って、負けて退却したんですね」
 気分が暗くなった。ラフ先生も大きな息をついた。
「新政府軍のほうが圧倒的に兵力があった。勝海舟は最初からそれがわかっていて、新撰組を甲州に向かわせたんだ」
「そのこと、斎藤さんも知っていたんですね? だから、出発前、何だか様子がおかしくて、ラフ先生とニコルさんもそれをちょっととがめていた」
 甲州で集められる情報は断片的だった。バラバラのピースをつなぐようにして、新撰組の行方を追った。近藤さんや土方さんの故郷、多摩の村々にも足を運んだ。そうこうして、ようやく、流山《ながれやま》に向かったことをつかんだ。
 流山は、江戸の北東に位置している。北へ向かう街道の要所だ。ここから北上していけば、会津がある。新撰組の上司である会津の殿さまが、江戸から追い出されるようにして、自分のお城へ帰っていった。
「主要なメンバーは一応みんな無事みたいでしたけど、これから新撰組は会津へ行くんですか?」
「そのへんは、斎藤らと合流できてからの展開じゃねぇかな。とりあえず、江戸に戻って沖田に報告しよう。それから三人で流山に向かう」
「はい。これって、沖田さんの最期の戦いになるんでしょうか?」
 ラフ先生は髪を掻きむしった。
「イヤだな、最期とか。史実知ってても……知ってるから、きつい。アイツの命日、知ってんだよ、オレ」
 ラフ先生の言い方でわかってしまった。沖田さん、本当にもう長くないんだ。