壮悟くんが、かすれた声で言った。
「あんたも、死にたくなるの?」
「前は、たまに死にたくなっていました」
「今は?」
「歌姫と呼ばれるようになってからは、ないですね」
「歌い手だったら、ギャラ、もらえるの?」
「それなりに。でも、公認シナリオライターのほうがもうかりますよ?」
 壮悟くんが、そっと笑った。
「おれには、これしかないから。書くことしかできない。勉強もけっこうできるけど、学校の成績がいいくらいじゃ意味ない。おれにしかできないことをしたい。それが認められて仕事になるなら、そんな嬉しいこと、ほかにないよな」
「壮悟くんはシナリオライターとして有名になれると思います。病気だって、きっと治りますよ。治療法のないあたしの症状とは違うんだし」
「治療法がない?」
「ないんです」
「どうして?」
「病気じゃないからです。ただの体質なんです。特定のタンパク質に過敏に反応する体質。似た体質の人は、世界でもほんの少数です。この体質を司る遺伝子を治せないかっていうアイディアもあるんですけど、あたし専用のオーダーメイドの治療は無理ですね」
「無理って、どうして?」
「もったいないから。緻密な遺伝子操作で病気を治す方法を確立するなら、より多くの患者さんの役に立つところからやるほうがいいでしょう? 例えば、壮悟くんが今度受ける造血幹細胞の移植。自分から自分への、新しい形の移植手術です」
「だから、あんたは犠牲になるって?」
「犠牲だなんて。あたしは受け入れています。この体でも、割と普通に生きられるんですから。二十一世紀の現代に生まれてラッキーです」
 沖田さんの肺結核を思い出す。肺結核は、二十世紀後半には治療法が確立された。予防接種も普及した。でも、一八四四年生まれの沖田さんは、あの病気を克服できない。
 壮悟くんは両ひざの上に肘を突いて、人工芝の地面に視線を落とした。あたしもその視線につられた。壮悟くんのスニーカーの足が大きいことに気付いて、ビックリする。
「あんたは、この先もずっとなんだな。病院で過ごす時間が長くて、歌姫としての活動もピアズの中だけで」
「ピアズがあるから、歌う機会があるんです。病室にいても、ライヴができる。元気な姿で、いろんな人と出会える。それだけでも、あたしは十分嬉しいです」
 ずっと大好きでプレイし続けてきたピアズに唄システムが導入されるとアナウンスがあったとき、すごく興奮した。一年くらい前にオーディションがあった。合格通知のメッセが届いたときは、嬉しすぎて泣いてしまった。
 一つのステージに一曲、テーマソングみたいに唄が設定されている。一定の条件を満たして、そのステージをクリアすれば、唄をコンボスキルとしてダウンロードできる。
 あたしの唄はBPMが速い曲がほとんどだ。変速する五拍子のバラードもある。スキルとして難しい曲ばかりを書いた。だから全曲、ハイエストクラスのステージに置かれている。ちょっとした希少価値があって、それが逆にウケている。
 今度、朝綺先生を通して、わがままを一つ言おうと思っている。誠狼異聞にミユメの唄を設定してほしいって。あたしならピッタリの曲を書けるから。