女の子の姿が見えなくなったころ、ささやくように歌い続けていた沖田さんが、ふっと声を止めた。
 ラフ先生が「やべぇ」と沖田さんに駆け寄った。その瞬間、沖田さんはくずおれた。ラフ先生が抱き止める。
「沖田のスタミナ、尽きちまってる。やっぱ、戦線復帰は無理だ。このまま大坂まで連れて行こう。街道が封鎖されてなきゃいいんだが」
 ラフ先生は、沖田さんをお姫さま抱っこしようとして、アタシをチラッと見て頬を掻いた。絵になるから、また見たかったんだけど。
「アタシが沖田さんを背負いましょうか?」
「それなりに重いぞ、コイツ」
「大丈夫です。意外と力があるんですよ、アタシ」
 アタシのステータスは極端だ。魔法は水と氷しか使えない。物理移動の素早さはわざと下げてあって、そのぶんの数値を腕力に振り分けた。実は、ビンタが最終兵器だったりする。沖田さんをおんぶするくらいの力は十分にある。
「じゃあ、任せる」
「任されました。でも、途中で敵が出たら退治してくださいね。沖田さんを放り出して戦うのも、気が引けるので」
「OK、わかった」
 沖田さんを背負って歩き始める。ラフ先生が笑い出した。
「笑うとこじゃないかもしれねぇけど、すげぇ不思議な絵だな」
「不思議な絵?」
「制服姿の美少女がイケメンの侍を背負ってる。しかも、背景が幕末の京都だろ。写真、撮っといてやろうか?」
 そんなにおもしろいかな? アタシはカメラを切り替えて、引いたアングルの映像を表示してみた。
 ミユメはいいなって思った。男の人を背負っても歩けるくらい元気で。
「沖田さん、熱、高いんでしょうか?」
「ん?」
「あ、いえ。ちょっと想像したんです。現実だったら、沖田さんとくっついてるアタシの背中、温かいだろうなって。沖田さんの熱が高いなら、熱いくらいなのかなって」
 アタシの耳のすぐ後ろに、沖田さんの唇がある。くすぐったさの幻に、アタシは首を思わずすくめた。
 大坂への街道は封鎖されていなかった。病人を連れていて急いでいる、と言って検問を抜ける。ぐったりして意識のない沖田さんが新撰組だなんて、誰も疑わなかった。
「この検問、今の常識からすりゃザルだよな。当時は写真入りIDカードがあるわけでもないし、写真すらメジャーじゃない。実際に会ったことがない相手の顔は、わからねぇんだ」
「指名手配犯になっても、逃げられそうですね。写真で照合できないなら、シラを切れます」
 道中、野生のモンスターがときどき出た。ラフ先生は何の問題もなく、一人で撃退した。