歌い終わって、屋上を後にして、エレベータホールで朝綺先生と別れた。
 あたしは、お昼ごはんの匂いに満ちた小児病棟の廊下を突っ切った。壮悟くんの病室の前に立った。インターフォンを押すと、中から看護師さんの声がした。壮悟くんもいるみたい。
「失礼します」
 あたしはドアを開けた。壮悟くんは、食事に手を着けていない。また看護師さんを困らせていたんだろう。
 ベッドに腰掛けて、目を丸くしている壮悟くんに、あたしはまっすぐ近付いた。右手を振り上げる。
 ぱん!
 小気味のいい音が鳴って、右手がジンジンした。
「預かりものです。本当はぶん殴ってやりたかったんだそうですよ。それじゃ、失礼しました」
 あたしは壮悟くんの病室を立ち去った。すごく、せいせいした。