あたしはちょっと背筋を伸ばした。
「実はですね、あたし、去年の今ごろ、好きな人ができたんです。姉の友達って、最初は紹介されて、カッコよくてまじめな人で、勉強を教えてもらったりして。あっという間に好きになりました」
瞬一《しゅんいち》さんという人だ。姉の親友の笑音《えみね》さんが連れてきた。姉と瞬一さんと笑音さんの三人は仲がよくて、あたしの家でよく一緒に勉強会をしていた。
「クリスマスの直前に知ったんですけど、姉もその人のことを好きなんだって。姉の親友から、二人をくっつけるから手伝ってって頼まれて、複雑でした」
笑音さんから事情を聞かされて、姉と瞬一さんの様子を観察して、わかってしまった。瞬一さんも姉のことを好きなんだって。
「結局、バレンタインでした。姉がその人にチョコを渡すところを見たんです。カップル成立の瞬間を目撃しました。あたし、最初から登場人物じゃなかったんです。舞台の外で、勝手に失恋した感じでした」
瞬一さんへの想いが一回目。今回が二回目だったんですよ。勝手な片想いのまま失恋したのって。朝綺先生、あなたのことが好きでした。
そんなふうに、あたしは胸の中で付け加えた。バイバイ、朝綺先生への恋心。
もしかして、と朝綺先生が言った。
「あの曲、そのときに作ったのか? 『失恋ロジカル』って、実話?」
「はい、実話なんです。どの唄も正直な気持ちで書いていますけど、『失恋ロジカル』は本当に感情が入りましたね」
ロックチューンに乗せて、悲しいんだけど、明るく駆け抜けるような唄。失恋ソングとはいっても、応援ソングでもあって。
あたしは朝綺先生に笑いかけた。
「麗先生のところ、早く行ったほうがいいですよ?」
「んー、わかってんだけど、どんなふうに声かけりゃいいのか」
「元気出してください。応援したいから、歌ってもいいですか?」
「え? 唄?」
「ミユメのミニライヴ。リアルの側での開催は初めてなんですけど」
あたしはポケットからコンピュータを取り出した。画面を起ち上げて、ミュージックポッドを呼び出す。
「マジで? おれ一人のために、ミユメが歌ってくれるわけ?」
「はい。特別ですよ」
ミユメのファンだと言ってくれた朝綺先生の前で、今いちばんの正直な気持ちを込めて。
音源を再生する。BPM300。ハイトーンのギターリフから、曲が始まる。あたしは、ミユメと同じトーンで叫んだ。
「戦唄―バトルソング―!」
「実はですね、あたし、去年の今ごろ、好きな人ができたんです。姉の友達って、最初は紹介されて、カッコよくてまじめな人で、勉強を教えてもらったりして。あっという間に好きになりました」
瞬一《しゅんいち》さんという人だ。姉の親友の笑音《えみね》さんが連れてきた。姉と瞬一さんと笑音さんの三人は仲がよくて、あたしの家でよく一緒に勉強会をしていた。
「クリスマスの直前に知ったんですけど、姉もその人のことを好きなんだって。姉の親友から、二人をくっつけるから手伝ってって頼まれて、複雑でした」
笑音さんから事情を聞かされて、姉と瞬一さんの様子を観察して、わかってしまった。瞬一さんも姉のことを好きなんだって。
「結局、バレンタインでした。姉がその人にチョコを渡すところを見たんです。カップル成立の瞬間を目撃しました。あたし、最初から登場人物じゃなかったんです。舞台の外で、勝手に失恋した感じでした」
瞬一さんへの想いが一回目。今回が二回目だったんですよ。勝手な片想いのまま失恋したのって。朝綺先生、あなたのことが好きでした。
そんなふうに、あたしは胸の中で付け加えた。バイバイ、朝綺先生への恋心。
もしかして、と朝綺先生が言った。
「あの曲、そのときに作ったのか? 『失恋ロジカル』って、実話?」
「はい、実話なんです。どの唄も正直な気持ちで書いていますけど、『失恋ロジカル』は本当に感情が入りましたね」
ロックチューンに乗せて、悲しいんだけど、明るく駆け抜けるような唄。失恋ソングとはいっても、応援ソングでもあって。
あたしは朝綺先生に笑いかけた。
「麗先生のところ、早く行ったほうがいいですよ?」
「んー、わかってんだけど、どんなふうに声かけりゃいいのか」
「元気出してください。応援したいから、歌ってもいいですか?」
「え? 唄?」
「ミユメのミニライヴ。リアルの側での開催は初めてなんですけど」
あたしはポケットからコンピュータを取り出した。画面を起ち上げて、ミュージックポッドを呼び出す。
「マジで? おれ一人のために、ミユメが歌ってくれるわけ?」
「はい。特別ですよ」
ミユメのファンだと言ってくれた朝綺先生の前で、今いちばんの正直な気持ちを込めて。
音源を再生する。BPM300。ハイトーンのギターリフから、曲が始まる。あたしは、ミユメと同じトーンで叫んだ。
「戦唄―バトルソング―!」