屯所に戻ると、沖田さんは熱を出して寝込んだ。
 アタシたちは近藤さんと土方さんに、ことの顛末を話した。近藤さんは顔を覆って泣いた。土方さんは、キレイな顔を仮面のように固くして、機械的にアタシたちをねぎらった。
「ミユメ、ラフ。山南敬助脱走の始末、ご苦労だった。このことは他言無用だ」
「わかりました」
「オマエたちが見てきたことは、妖が創り出した幻だ。そういうことにする。ほかの者たちには、山南敬助は脱走の責を負って潔く腹を切ったと説明する」
「腹を切った? どうして切腹したという嘘をつくんですか?」
「それが山南さんへのはなむけになる。脱走した罪人として追手に討たれたなどと言えば、山南さんが大切にしていた武士としての矜持はどうなる?」
「矜持……プライドが、傷付けられるから……?」
 土方さんは繰り返した。
「山南敬助は武士の作法を守り、見事に切腹して果てた。介錯は沖田総司が務め、山南敬助を長く苦しめることなく、一刀のもとに彼岸へ送った。それが新撰組としての公式見解だ。オマエたちが見たものは、すべて、妖の創り出した幻だ。いいな?」
 アタシは何も応えられなかった。頭の中がぐちゃぐちゃだった。
 次は誰が、命を以て、まっすぐな生き方を貫くんだろう?
 ラフ先生が、かすれた声でつぶやいた。
「幕末の動乱には心を惹かれる。人間の生きざまが一生懸命だからだ」
 その生きざまがカッコいいとは思えなかった。アタシは、ただ悲しかった。